ゴールデンウィーク3日目③
“能力を発現させる薬物”そんなものが存在するのか!? いや、目の前の現実は幻じゃない。慎也さんは薬物によって能力を強制的に発現させている!
「音羽ぁ、解るだろぉ? これがないと、お兄ちゃん…能力使えないんだよぉ! こいつを買うのにも金が要る! 俺の夢を叶える為にぃい!」
「嫌ぁ…お兄ちゃん…戻ってきて…!」
泣きながら懇願する千年さん。それに見向きもしない慎也さん。
助けなきゃ! でも、なぜか体が動かない…。
このまま出て行って慎也さんを止められるのか? 能力を使わない僕に何が出来るんだ! なら能力を使えばいい! 使えばいいだろ! なんで…なんで僕は能力を使おうとしないんだ!
「音羽ぁ! 金を寄こせ! さぁ早く! 金を渡せ! 渡せぇええええ!!」
「…ぅ…ぅう…いや…ぁ」
千年さんの手が動く、まるで自分の意思に反しているように。
手に財布が握られる。慎也さんが財布を奪い取ろうと近付く。
「お兄ちゃん…やめて…!」
早く! 動け僕! 何やってんだよ! 能力を使え! ツカエ!!
僕の頭に声が響く…これはなんでもない、ただの記憶……。
僕に向けられた怨嗟の言葉……。
(お前さえいなければ!)
(三好一人でやればいいだろ!)
(返せよ! 俺達の意味を!)
(お前なんかに、俺達の努力が分かる訳ないだろ!)
(結局必要なのはお前だけじゃないか…)
(お前は! 何もかもを奪っていった災厄だ!)
僕が能力を使ったせいだ! 僕のせいで、皆を傷つけて、存在理由の奪ってしまった! あの日から、僕は能力を使わないと決めた。こんなものは能力じゃない、才能なんかじゃない!
こんなものは……呪いだ!
「ぁあ、そうだ…音羽ぁ、お前、一緒に来いよ。そうだ、一緒に! 一緒にお兄ちゃんの夢を叶えよう! 音羽ぁ、お兄ちゃんを…見捨てないでくれぇ…」
「お兄ちゃん…目を覚まして…こんなことしても、お兄ちゃんの夢は叶わないよ!」
「黙れぇえええええええ! いいから来い! さぁ! 来い!」
千年さんが抵抗しても、徐々に距離を詰めていく慎也さん。
「いや…! いや…ぁ!」
また能力で従わせようとしているんだ。
でも、ごめん…千年さん…。
助けられない…僕は、能力を使うことが、出来ない。
「一緒に夢を叶えよう! この薬でぇ! 皆が能力者になれる世界を!!」
「…………け……て……」
千年さんが何かを言った。
それが僕に向けたものだと分かった。
思い出したのは、彼女の笑顔…彼女の仕草…彼女の温かな雰囲気…。
目の前に広がる光景は彼女の涙で、ぐちゃぐちゃに壊れそうだった。
また失うのか……今度は、何もせずに……彼女を見殺しにして、何もかもを失うのか……!
彼女は言った!
確かに言った!
僕に「たすけて」と!
「音羽に! 近付くなぁああああああああああああ!!!」
音羽と慎也さんの間に立ち塞がる!
能力から開放された音羽がガクッと体勢を崩し、倒れる。
「誰だ!? クソッ! 邪魔するなぁあああああ!!」
激高した慎也さんは、今度は僕に能力を向ける。
能力を受けた瞬間に理解した。これは“催眠”だ!
「退け! 退け! どけ! どけ! どけぇえええええ!!」
催眠は繰り返すことによって効果を増し、脳を麻痺させる。
足が動きそうになる。意志とは別に脳が勝手に足を動かそうとしている。
だけど、僕にそんな事をしても無意味だ。
僕は使う、ずっと隠していた…二度と使わないつもりでいた、禁忌の力を…超能力を!
「眠れ…!」
僕が発した言葉はたったそれだけ、慎也さんは僕や音羽を催眠にかけるのにどれだけ言葉を重ねただろう……でも、超能力なら、一言だ。
たった一言で、慎也さんは眠った。
「三好……くん…」
「大丈夫、眠ってるだけだよ。ごめんね、遅くなって…」
「三好君…謝ってばっかり…だ…よ……」
精神的疲れもあっただろう、幾度となく催眠をかけられ、それに抵抗した反動だ。音羽はそのまま眠ってしまった。
そのあとすぐ先輩が助けに駆けつけ、音羽と慎也さんは病院へと運ばれた。僕達も病院へと向かい、二人の回復を待つことにした。
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