ゴールデンウィーク3日目②

「もしもし! お兄ちゃん! 無事なの!? どこにいるの!?」


突然かかってきた慎也さんからの電話。


皆が息を飲んだ。


「うん! 分かった! 待ってて! すぐ行くから!」


千年さんはそう言って電話を切った。酷く慌てているようだ。


「お兄ちゃん、昨日の廃ビルの前にいるって! それから、お金が必要だって言ってた! 私ちょっとお金下ろしてくる!」


「待って! 僕も行く! バジリスクが情報を掴んでいるかもしれない! お金を下ろすのはいいけど、そのまま廃ビルに向かおう! 先輩達は情報を錯乱させて、バジリスクの動きを止めてください!」


掴んだ大逆転のカード、切り札! 慎也さんの居場所をダイレクトに掴むことができた!


失敗できない! バジリスクは必ず情報を掴む。ならば僕達が最初に嵌った罠をこっちから仕掛けてやる!


「分かったわ、バジリスクは私達に任せて!」


頷いてから僕と千年さんは部屋を飛び出した。


「ロック、お願い!」


「三代目のご命令とあらば!」










街の中をひた走る。息が切れそうだけど時間はない!


ゴールデンウィークの賑わいを見せる通りを外れて狭い路地裏へ、暗黒街の入口を抜けて暗闇の中へ!


「お兄ちゃん…とは…ハァ…ハァ…私が…話す…から」


「…ハァ…ハァ…分かった…僕は…隠れて…見てるよ……ハァ……っ…危険なら…出るからね」


「…うん……頼りに…してるっ!」


ずっと休まずに走った。もうすぐあの廃ビルだ! 僕は違う道に入り、別の方向から廃ビル近くに身を潜めた。


整える呼吸さえもうるさく感じる。


千年さんは……ビルの前の開けたスペースに走ってきた。


「ハァ…ハァ…っ……ハァ…ハァ……っ」


千年さんを見える位置、向こうからだとなかなか見つけられないだろう。少し距離があるが、仕方がない、ギリギリだ。


「お兄…ちゃん…ハァ……どこ?」


千年さんが呼吸を整えながら辺りを見渡す。すると、ビルの中から男の人が出てきた。


「お兄ちゃん!」


間違いない、あの人が慎也さん。千年さんのお兄さんだ。


右手の甲に火傷の痕がある。


服はボロボロでとてもやつれて見える。


「お兄ちゃん! 何があったの!? 私と一緒に帰ろう!」


「ぉ、俺は…夢を…叶えるんだぁ! 音羽ぁ! 早く金を寄こせぇっ!」


「おにい…ちゃん? どうしたの? 何で、そんなに怖いの…?」


「俺はぁ! …能力者に…ヘヘッ…なったんだぁ…コレだ! コレがあれば能力者になれるっ! ゲホッゲホッ! 夢を叶えられるぅぅ!」


そう言って慎也さんが懐から取り出したのは、市販のミントタブレットのお菓子が入っていそうな少し大きめのプラスチック容器。


その中から出てきた丸い錠剤をガリガリ、ボリボリと大量に、まるで獣のように噛み砕き、食べた。


見れば解る…千年さんの悲痛な叫びを聞かずとも、この状況、状態、その錠剤…見れば解る! あれは“薬物”(ドラッグ)だ!!


「やめてぇえええ!! お兄ちゃん!! 駄目ぇええええ!!」


「来るなぁああああ!!」


薬物を貪る行為をやめさせようと走り出した千年さんを、言葉だけで止める。


「何!? 足…動かない!」


「ハッハッハッハッハ! …ゲホッゲホッ! スゴイ! こいつァスゴイぃいいいい! 能力だ! ガハッ! …俺にも、能力が使える!!」 

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