ゴールデンウィーク2日目②

(じゃあ、そっちは任せた! 僕と三代目は別の案件を調べなきゃだから、頑張ってね~)


(え! ちょっと…!)


一方的に切れた。別案件ってなんだ? それに、何を調べてこんな廃ビルを捜したんだ? この中に慎也さんがいるなんて、もし脅されてるのだとしたら中には10数人の人間がいたっておかしくない。


それを僕達に任せるって……安全ってことでいいのか?


「……行こう、千年さん」


「う、うん……」


僕達はゆっくりと廃ビルに侵入する。一階には何もない。ただ広い空間が広がっていただけ。


階段を上って二階……ここも一階と同じ、空間だけが広がっていて他に部屋があるようには見えない。


三階……ゆっくりと階段を上っていく、音を立てないように…中腹あたりで唐突に、ドラム缶を思いっきり蹴飛ばしたようなガシャン!というけたたましい音が響いた!


「きゃあああああ!!」


千年さんが悲鳴を上げる。いきなり大きな音がしたから仕方ない、だけどマズイ! 気付かれた!


「誰だ!」


暗闇に響いたのはなんと女の子の声。でも、間違いなく慎也さんの声じゃない!


「逃げよう!」


千年さんの手を掴んで階段を走って降りる!しかし相手はすぐに追いついてきた!


「止まれ!」


「止まれと言われて止まる人はいないよ!」


そうは言ったが、気配がだんだん近付いてくる…! 距離を詰められている!


一階まで降りた。あとはこのビルの出口まで…!


「チェックメイトだっ!」


僕達を黒い風が追い越す。出口に立ちはだかる死神は、僕達を睨みつける少女だった。


少女は僕達と変わらないくらいの年齢に見えた。しかし、漆黒というのが相応しいほど黒いダメージコートと放つ空気と鋭い威圧感のある眼は、僕達を凍りつかせた。


「質問にだけ答えろ。お前達、ここで何をしている」


嘘を言っても状況が悪くなるだろう。ここは正直に答えよう。


「人捜しだよ」


「誰を捜している?」


「……」


「言えないか? なら…」


「千年 慎也。私のお兄ちゃん」


慎也さんの名前を言ったほうがいいのか、僕が迷っていると千年さんが変わりに答えてくれた。


「そうか、奴には妹がいたのか…お前を人質に取れば、奴も姿を見せるかもしれんな」


「お兄ちゃんについて何か知ってるの? どこにいるの? 教えて!」


「それは私が一番知りたいんだよ!!」


廃ビルに響く冷たい怒号と千年さんの小さな悲鳴。


「せめて、何で慎也さんを捜しているのかだけでも、教えてくれないかな?」


「キサマ…取引ができる立場だと思っているのか?」


「教えて! お兄ちゃんは一体何に巻き込まれているの?」


「うるさいっ! お前を使って奴を炙り出す!」


そう言うと漆黒の少女は突然千年さんに殴りかかってきた!


「ぐあっ!」


千年さんを庇った僕は顔面にパンチを貰った。口の中を切ったのだろう、血の味が広がる。


「三好君!」


「下がって、彼女の狙いは千年さんだよ!」


「フン…殴り返さないのか? 遠慮はいらないぞ」


「誰がそんなこと…!」


「チッ! 興が醒めた……女一人殴れんやつがここに来るとはな……これ以上は手を引け、奴は私が始末する。キサマのような臆病者なら、私が喰わなくても勝手に喰われる……」


漆黒の少女はそのまま廃ビルを出て、闇の中へと消えていった。


「大丈夫? 三好君!」


「へいきだよ、また…何も出来なかったけど」


「ううん、庇ってくれた、ありがとう」


「さぁ、ここを出よう。先輩達にも連絡しなきゃ」

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