第4話
雨の日は、大好き。
なんといってもにおいが大好き。古い埃のような、くすんだ分厚い本みたいなあのにおい。
寒さでがちがちいう歯と、じっとしていられない腕を抱きしめてあちらがわを覗く。
車が通り過ぎる度に津波が歩道を襲った。
脚が通り過ぎる度にギザギザの水玉が跳ね跳んだ。
ぼくは首を傾げる。空を見上げて、地面との境目を見つめて。
やっぱり、不思議なことだ。
ザーザーが聞こえない。ビシャビシャも、ピチャピチャも、水の音がない。一切。にもかかわらず、雨が降っている。無音の中で雨が降っている。
雨の音が好きだった。誰が笑ったって、何が五月蠅くったって、ぼくが泣いたって、ぼくはなにも聞こえなかったから。
雨が黙ってる。
少し不安になったけど、すぐに気付いた。サボテンがぼくに耳打ちしてくれた。そうか、今はもう、あのモザイクさえ聞く必要がない。
ならそれでいいや。
ぼくは満足して、こっちがわに転がって笑った。サボテンと一緒に笑い転げた。
上空から微かに、ケタケタ荷物運びが通り過ぎるのを聞いた。それだけ。
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