第4話

 私が「脳梗塞」で土浦の老人ホームにいると伝えると、「鴻巣さんの場合は仕事のしすぎだよ!」と言ってくれた。

その我妻さんも会社を辞め、今はゴルフを友として、元気で生きている様子である。

 

 彼は、日東電機の社長さんから「君の流山の家を担保に一千万円を用立てて欲しい」と言われたそうだ。

そんな彼のスコアは、八十代だという。彼と一緒に良く行った頃の私のスコアは百前後だった。


 あの頃の私の人生は光輝いていた。

それに比べ、今の生活は同情を禁じ得ない。私は三年前玄関前に現れ、「この紙に離婚の印鑑を押してくれないか?」と現れた嫁を今でも忘れることは出来ない。

嫁の顔が鬼の顔に見えた。父は毎晩のように彼女のことを「鬼嫁だ!」と言っていた。 


 ここに入って三年、嫁の夢は見たことがない。

私と言う人間は、それだけ情がなかった。現実の夫婦生活を、苦々しく思っている。

私は一人が好きで、「お父さんは、一人暮らしが長いので、一人きりの生活の方がいいんでしょう?」と嫁が子供達に言っているのを聞いてしまった。


 一番愚かなのは自分である。

 私に必要なのは「孤貧」である。愚者よ、立ち上がれということであろう。

 己の生き方は、五歳の時のまま情けない自分を可愛がっている。私には誰も必要はない。


 渡邊氏が復活してくるのが楽しみである。

私の夢は、渡邊氏の肩に掛かっている。私が鬱の話をすると、「俺もそうかも知れない!」と言っていた。


 作家とか絵描きなどは、正気では生きていけない。

州之内さんも水野氏も女が好きだった。それぞれに女が三人ぐらいいた。山頭火や利行は酒に酔い、良寛や一休さんは、禅の道を楽しく生きた。

 昨年もそうだったが、今年も以上機種で日本中が大雨の被害を受けているが、この地は花もなければ、そういった災害もない無味感想な地である。


 今後のことはわからねど、私は無情のままあの世へ行くことになる。

 姉は「従兄と私の三人で、九月の休日銚子へ行こう」と言っていた。手帳を見ると、毎日何等かの仕事をしている。

姉は小さい体を目一杯使って働いている。私の身は、自分でもわからないし、私の店の最後の従業員だったN女史は、半年で新橋の酒場を辞めてしまった。

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