第24話 選択の確認
僕は、試されているのか、騙されているのか。
たとえそれがわかったとしても、僕にはどうすることもできない。人妻ものに出演している女優が実は独身だと知ったところで、清純派の新人女優が実はヤンキーだったと知ったところで、僕の選択肢になんら影響を与えるものではない。
借りるか、借りないかの選択しかない。
つまらなかったから、パッケージと中身が違っていたから、宣伝文句に嘘があったからと言って、やり直しが効くものではない。いや、そんなことはないのかもしれないが、それが僕のルールだ。
だがしかし、これはどうしたものなのか。
「AVを借りる、借りないのレベルで迷っている僕が、人類が歴史をやり直すかどうかの選択権を握っている。お前たち、どうして僕なんかを選んだんだ。その理由を聞いている。答えろ」
その問いに答える声は聞えてこない。
僕は力なく笑った。張り詰めていた僕の中の何かが、切れた。
「おい、何か言えよ!」
"選ぶのはあなた"
文字が画面に浮き出る。
"あなたは選ばれた"
画面にノイズが走る。また文字が浮かび上がる。
"選ぶのは自由"
黒いバックに白の文字。
"選んだのはあなた"
テレビ画面に映像が浮かび上がる。
"あなたは正しい選択をすることができる"
白いバックに、黒い文字。
"あなたの誤りは、人類の誤り、あなたの正しさは、人類の正しさ"
次は黒いバックに、白い文字が浮かび上がる。
"この先、人類が滅びる可能性は――"
画面に、数字が表示される。それは絶望といっていいほどの、悪い数値だった。
しかし、僕は絶望も疑いも、迷いも、乱れもしなかった。
なぜ僕は冷静で入られるのか――さっき思いっきり感情に任せて怒鳴り声を上げたお陰で、僕の中のもやもやしたものを一気に燃やしきり、大怪獣のごとく炎にして吐き出したことで、頭が冷却されたらしい。
僕はいつの間に、こういうことができるようになったのだろうか?
その検証は後にしよう――つまりこういうことか
「ゼロではない事象は必ず起きる。それと一から歴史をやり直すかどうかを、僕に選べと言う事か」
僕がこうやって冷静に考えられるようになることを、きっと見透かしていたのだろう。
或いはそうなるように、ずっと見守られてきたのだろうか?
『最後の選択』についての規定事項がもう一度読み上げられた。
選択期限の確認
期限内に選択しない、またはできなかった場合、世界は滅びること
今から選択期限の間、天使、悪魔と会えないこと
第三者に相談してもいいこと
選択後には、第三者に話した内容は記憶から消去されること
"やり直す"という選択についてもう少し具体的な説明をもとめてみた。
そ人類が滅びる未来のルートはいくつも枝分かれしている。しかし現時点でどのルートを選択しようとも地球の星としての寿命よりも早く人類は滅亡することが高い確率で決まっているのだという。
"やり直し"をどのような理屈や仕組みや技術で行うかは別として、人類が最初に行った選択肢から歴史をやり直すことができるという。
その選択とは、僕が生まれるよりもずっと昔のことであり、喩えるならば、浦島太郎がカメを助けるという選択肢にたどり着く前に、"助けない"という選択肢を選ぶように、浦島太郎の生き方、考え方が形成される前まで、時間軸を戻すということらしい。
それを信じるかどうかという話もあるのだが、疑うべき根拠もない。
そして僕は思う――やり直せるのなら、僕はどこからやり直せば、今とは違った人生を、歩むことができたのだろうか。
それにしても何一つ疑問は解消されていない。
世界が滅びること
それを回避するための選択が残されていること
天使と悪魔がいったい何者なのか
そして彼女たちは何の意志に従って行動をしているのか
なぜ僕が選ばれたのか
僕はこのあと、どんな時間を過ごせばいいのか
「そうだ。僕はこの後、どうすればいい? つまりこのDVDをそのまま返却ボックスに戻せばいいのかな?」
"はい、返却をしてください"
「それで、選択期日がきたら、僕はどこで、何をすればいい?」
"またこちらのDVDをお借りください"
「つまり来年の3月31日にレンタル店に行けば……アダルトコーナーに行けば、借りられるということでいいのかな?」
"はい、日付が変わり、期日が過ぎるまでの間にお越しいただければ、こちらのDVDをお借りすることができます"
「なぜ、あの場所で、しかもアダルトコーナーでなければならないのか、そのくらいの疑問には答えて欲しいな」
"お答えします。選択者があのコーナーの暖簾をくぐる瞬間、あのスペースは特別な空間となります"
「つまり"精神と時のコーナー"とか、"どこでもいけちゃう暖簾"みたいなものか?」
"時間軸は変わりませんし、別の場所にワープアウトするわけでもございません。具体的な仕組みはお答えできません"
「そこは通常空間ではあるものの、君たちと――その君が誰なのかという話はあるんだが、このDVDを僕に渡すのに都合のいい条件が整う場所ということでいいのかな」
"お答えできません"
僕は相手が何者なのかを、どうにかして探ろうと努力をしたが、どうも無駄のようだった。
結局自分で考えて、自分で判断するしかないということで、自分を納得させて、DVDの再生を止めた。今までどうやっても止められなかったDVDは、デッキから吐き出された。
「より、これでゆっくり残りのアダルトDVDが観られるな」
こうして僕は、一週間前の僕の選択が間違えではないことを、確認することができた。
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