第48話 叶えたかったのは
11
遅れてやって来た
休憩室のソファーに横たえられた誡は安らかな寝息をたてている。
彼女の横に腰かけ髪を撫でる。職員の人たちによれば、空き部屋で倒れていたらしい。頭を打ったかもしれないとのことだったけど、触った感じたんこぶもない。
彼女の様子を観察している内に、誡はの目元に雫が溜まって長いまつ毛を濡らし始めた。なにかしてしまったかと慌てたけど、誡の表情は柔らかい。
もう少し、見守ることにした。
気がつくと、利用者たちの声もしなくなっていた。誡は眼帯をしていないほうの瞳から涙を零している。指先でそれを拭う。泣いている彼女を、
「んっ……」
「誡?」
小さな呻き声。呼びかけると、ゆっくりと
空中を彷徨っていた瞳が
「おはよう、誡。どんな夢を見ていたの?」
まだぼんやりしている誡に問いかける。しばらく
「えっ――」
突然の出来事に反応できないでいると、誡は
「……百年は、とうに過ぎていたのですね」
そうして首元にすりついてくる。
なんのことかわからなくって、なにが起こっているのかも把握できなくて。
けれどどうしてか、
「うん。そうだね」
もう忘れてしまった遠い約束を果たしたような、そんな不思議な心地よさに浸りながら。
-1
この世の残酷さが人によって定められたのと同じように、きっとこの世の美しさも人が定めたのだろう。
そうでないと、彼が命をかけてまで守ったものが、無為になってしまうから。
だから、私は願う。
自分の人生が終わる最後の瞬間に、きっとこう願う。
また彼に出会えたら、今度こそ私は、
この手で貴方と、貴方の願う幸せを守ってみせると――――
第四章
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます