第48話 叶えたかったのは


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 遅れてやって来た自分ぼくが案内されたのは、職員用の休憩室だった。


 休憩室のソファーに横たえられた誡は安らかな寝息をたてている。

 彼女の横に腰かけ髪を撫でる。職員の人たちによれば、空き部屋で倒れていたらしい。頭を打ったかもしれないとのことだったけど、触った感じたんこぶもない。


 彼女の様子を観察している内に、誡はの目元に雫が溜まって長いまつ毛を濡らし始めた。なにかしてしまったかと慌てたけど、誡の表情は柔らかい。


 もう少し、見守ることにした。



 気がつくと、利用者たちの声もしなくなっていた。誡は眼帯をしていないほうの瞳から涙を零している。指先でそれを拭う。泣いている彼女を、自分ぼくは初めて見た。


「んっ……」

「誡?」


 小さな呻き声。呼びかけると、ゆっくりとまぶたが開いた。


 空中を彷徨っていた瞳が自分ぼくを捉える。


「おはよう、誡。どんな夢を見ていたの?」


 まだぼんやりしている誡に問いかける。しばらく自分ぼくを見つめていた誡は、唐突に起き上がり、自分ぼくに抱き着いてきた。


「えっ――」


 突然の出来事に反応できないでいると、誡は自分ぼくの頭をかき抱き、か細い声で呟いた。


「……百年は、とうに過ぎていたのですね」


 そうして首元にすりついてくる。


 なんのことかわからなくって、なにが起こっているのかも把握できなくて。


 けれどどうしてか、自分ぼくは彼女を強く抱きしめ返していた。


「うん。そうだね」


 自分ぼくは全身で、誡の熱を感じていた。


 もう忘れてしまった遠い約束を果たしたような、そんな不思議な心地よさに浸りながら。


         -1


 この世の残酷さが人によって定められたのと同じように、きっとこの世の美しさも人が定めたのだろう。

 そうでないと、彼が命をかけてまで守ったものが、無為になってしまうから。

 だから、私は願う。

 自分の人生が終わる最後の瞬間に、きっとこう願う。


 また彼に出会えたら、今度こそ私は、

 この手で貴方と、貴方の願う幸せを守ってみせると――――



        第四章 悲哀ひあい遊戯ゆうぎ 了


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