第21話 チェンジ

文科省との戦いに勝利した俺は、新たに加わった仲間をゲットして、内閣府宇宙開発戦略推進事務局が入る、霞が関東急ビルへ向かった。


そういえば、政府機能の地方移転なんて話しがあるけど、こんな近くにガッツリでっかいビル群作って、便利かつ快適に暮らしているのに、なんでわざわざ地方移転なんて不便なことをしようと思うのか、そんなこと本気でするつもりがあるわけないだろ、ちょっと考えたら分かることなのに、頭使えよ、騙されんな……とか、思ったりなんかしてみる。


国会議事堂前を通る時もそうだけど、この辺りの土地柄というか警備体制というか、独特の空気には、圧迫感がある。


ここが頂点、俺たちがサミットだ、どうだ、すごいだろ、まいったかみたいな。


このエリアだけが、日本の最高級、一流品だけを集めて作られているような、そんな錯覚に陥る。


プライドと権威の街、全くの俺の妄想だって、頭では分かってるけど。


俺の後ろから、綺麗に隊列を組んでついてくる、新たにパーティーに加わった旅の仲間を振り返った。


「で、作戦を聞こうじゃないか、『ガンガンいこうぜ』? それとも『バッチリがんばれ』? 『おれにまかせろ』?」


「何の話しだ。やっぱり俺は、霞が関東急ビルまでの道案内か」


俺は、この茶髪の好青年を見上げた。


「大体、宇宙政策委員会ってなんだよ、宇宙人でも襲ってくるのか、それとも移住計画か、俺の人生に宇宙開発なんて、なんの関係があるんだ」


「お前、今回、なんで宇宙開発局に乗り込んで行くのか、その理由を聞いてないのか?」


「どーせ研究センターがなんかヘマをやらかしたんだろ、それでうちに泣きついてきて、さらに上の偉いさん委員会に泣きついて誤魔化そうって魂胆だろ、そんなのミエミエだ」


彼は長く伸びた前髪を、後ろにかき上げる。


「ま、俺を頼ってくるくらいなんだから、よほど困ってるんだろうけどな。何をやらかした。どうでもいいけど、俺に迷惑をかけるなよ」


 

あぁ、マジか、本気か。


センター長のお友達文科省役人は、本当に事態を把握しているんだろうか。


「あー、これはまだ公式発表されてない、非公開の守秘義務規範にあたる問題なんだけど」


「あ、そういうの、面倒くさいからパスね」


「は?」


「とりあえず、お前が向こうに説明して。俺はただ一緒になって、『すいませんでした』って、頭だけ下げとくから。ヘタな説明は自分の墓穴掘るからしないよ。全部シャベリはあんたが受け持ってね」


彼は真顔で俺に向かってしゃべり続ける。


「『おまえに任せた』モードだ。さっき自分でも言ってただろ。『おれにまかせろ』って。じゃ、よろしくたのんだよ。謝罪の伴走者は得意だ、しっかり同伴し、同調する。ただし、余計な口はきかない」


「お前、上訴の内容に興味ないのか?」


「ないね」


その潔さは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……。


「俺は頭下げてりゃいいんだろ? 後のことは、知らねーよ、自分たちで何とかしろ」


「お前は俺をサポートするために、派遣されたんじゃないのか」


そう言われた彼は、豪快に笑った。


「あはははは、そんなわけないだろう、なんでこの俺がそんなことをするんだ。俺は あくまでお前の添え物だ、サクラだ、体裁を整えるためだけのモブ要員だ。俺に何 かを期待したり、要求とか考えるなよ!」


俺はスマホを取りだした。


センターに電話をかける、香奈先輩が出た。


「チェンジ」


「は?」


「チェンジで」


「だから、何がだよ」


「文科省の役人、もう少しハイスペックなキャラをゲットしたいんで、『逃がす』を選択して、チェンジでお願いします」


「じゃあ、お前がそうやって文部科学省、科学技術学術審議会、研究計画評価分科  会、宇宙開発利用、航空科学技術委員たちに説明しろ、さっきのセリフ、一言一  句、間違えるんじゃねーぞ」


「ちょ、それだけで済ませて、電話切らないでくださいよ。俺は今、人類の未来を背 負って立ち上がった、たった一人のヒーローなんですよ? とはいえ、やっぱどん なパーティーでも仲間ってもんが……」


「チェンジ」


その一言で、電話は切れた。


どいつもこいつも、役立たずばっかりだ。


「おい、なにやってんだよ、さっさと謝りにいって、チャッチャと済まそうぜ」


彼は、先に立って歩き出す。


「こういう面倒は、とにかく頭を下げときゃいいんだよ」


どうして政府主要機関って、こんな近所に固まってるんだろう。


宇宙開発局の入った民間ビルは、もう目の前だ。


一級品を気取ってるから、ちょっと頭を冷やして話し合うための、ファミレスやコーヒーショップすら、このあたりには存在していない。


大体近すぎる。歩いて3分、道を渡れば、すぐ目の前だ。


「ここがそのビルだ」


なんで政府主要機関は移転してないんだろう、国家の大切な危機管理だろ、ちゃんと分散させとけよ。


「いくぞ。宇宙開発局の人には、事前に連絡してあるんだろうな」


「してるわけないじゃないか、俺は、文科省からぶっ潰すつもりだった」


「宇宙センターが、内閣府の管轄って、知らなかった?」


「そんなこと、普段意識しながら暮らしてないだろ」


彼は、へっと、鼻にかけたような、変な笑い方をした。


「これだから、小物はいつまでたっても小物のままなんだよ。ちゃんと自分の上を見 て行動しろよ」


俺は大物だ。それに一切の間違いはない。


小物はお前の方だ。


「ま、実るほど、頭を垂れる稲穂かなって、言うだろ? これからアポ無し謝罪の技術ってもんを、見せてやるよ」


彼の自信は、一体どこからくるんだろう。


これほど強力な後ろ向き助っ人は初めてだ。


そんなことを話してるうちに、あっという間に目的地にたどり着く。


内閣府の所属とはいえ、ここは内閣府庁舎ビルではない。民間のビルに入る、国立研究開発法人だ。


文科省の人間がやってきたとなれば、同伴者もあっさり入管出来る。


肩書きって最強。


「俺の役目はここまでだ。後はお前がやれ」


言われるがままドアをノックする。


俺には、このノックされているドアが、一体どこに続くドアなのかも全く把握していない。


扉が開いた。


「すいませんでした!」


開門一番、宮下が大声で頭を下げる。


90度。俺も一緒に右へならえ。


てか、俺は何かの謝罪に来たわけではないのだが。


いきなり頭を下げるアポ無し文科省の人間に、相手は慌てふためいている。


彼の肘が、俺の脇をつついた。


それを合図に、頭を上げて、まっすぐ前を見る。


本番は、ここからだ。

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