第20話 関の門

東京虎ノ門霞ヶ関、文部科学省庁舎前。


よくテレビで見る三つの看板が並んでいる門の前にやって来た。


あの、震えるような下手くそな文字で書かれている看板がある所だ。


「失礼します!」


勢いよくドアをくぐろうとしたら、そこは締めきりになっていた。


お飾りのドアらしい。


よく間違えられるんですよねーなんて、通りすがりの知らない人にまで声をかけられる。


クソ役人どもめが、この俺にしょっぱなからトラップを仕掛けてくるとは、生意気な。


通りかかる人達の後を適当について行ったら、ちゃんとした立派な看板があって、そこからは至極普通に出入りが出来た。


悪いのはあの門が文科省だと印象づけるマスコミだったのか、ちゃんとした立派な出入り口があるじゃないか。


受付に進んでカウンターに声をかける。


「一番偉い人と話がしたい」


「アポイントはございますでしょうか?」


「俺が会いたいと言っている、と伝えてくれ」


警備員がやってくる。


こういう所の仕事は早い。


「国際ユニオン宇宙防衛局日本支部、アースガード研究センターの者です。先日行われた緊急国際会議の議決内容について、お話があって参りました」


「アポイントはございますでしょうか?」


「アポイントはございませんっ!」


「お引き取りください」


「守秘義務があって、簡単には言えない内容なんです。ここでその説明はできません」


「ならいっそう、アポイントメントは必要ですよね」


ここで簡単に引き下がる俺じゃない。


こういう時の頭はよく回る。


「あぁ、間違えました。違うんです、僕は情報公開請求に来たんだった」


受付担当者の顔がムッとなる。


情報公開法第3条に基づき、何人も、この法律の定めるところにより、行政文書の開示を請求できるのだ。


つまり、拒否できない。


「少々お待ちください。担当のものが参りますので」


と、いうやり取りの後でかれこれ30分、何度受付とかけあっても、「ただ今、担当をお呼びしておりますので」と澄ました顔で流される。


これがお前らのやり方か。


どして後から来た連中の方が、先に通されるんだと文句を言えば、事前予約ときたもんだ。


ムカツク。


「分かりました。もういいです」


そう言ってとりあえず外には出たが、こんなことで引き下がる俺ではない。


あいつら、いつか顔パスでここを通った時には、俺の顔をまともに見ることが出来ないくらい、恐れさせてやるからな、覚えてろよ。


そう、人生には、何事も作戦が必要だ。


対策を立て直そう。


ちょっと調べてみれば、霞ヶ関、官庁フロア&ダイヤルガイドなる書物が存在し、そこには霞ヶ関の周辺案内図と、官庁別のフロア図、階層図が掲載されている。


さらには、部署名から庁舎の階数まで早引きできる索引付きで、各課直通の電話番号一覧まである。最寄り駅の出口までも明記済み。すばらしい。


さっそく電話をかけてみる。


「あの、国際ユニオン宇宙防衛局日本支部、アースガード研究センターの者です。先日行われた緊急国際会議の議決内容について、ご相談したい内容があるんですが……」


「もしかして、杉山さんですか?」


「えぇ、そうです! そうなんですよ!」


あぁ、よかった。渡る世間に鬼はなし。


ちゃんと通じる所には、通じる人がいるんだ。


「センター長の鴨志田さんから、連絡を受けて、承知しております。今、どこにいらっしゃいますか?」


「文科省の、正面入り口ですぅ」


もう、ダメだ。感動しすぎて泣きそう。


「すぐに担当の者を行かせますので、お待ちくださいね」


「担当の者とは?」


「鴨志田さんと相談したんです。政府とかけあうなら、文科省とアースガードセンターだけじゃダメです。内閣府の、宇宙政策委員会にも味方をつけないと」


「あぁ、なるほど、そういうことですね」


「今から、うちの代表として、宮下を向かわせますので、一緒に内閣府へ向かってください」


「はい、ありがとうございます」


電話が切れた。


俺は、強力な旅の仲間を手に入れた。スキルアップだ。


もう一度、受付に戻り、さっきの担当者と警備員を横目にカウンターに片肘をつく。


「すいませぇ~ん、俺、すっげー勘違いしてましたぁ!」


こういう時の、とびきりの笑顔は欠かせない。


「俺、外務省は勤務してた経験があるんですけどねぇ、ほら、外務省って、合同庁舎には、入って無いじゃないですかぁ、だから、やり方とか、よく分かんなくってぇ!」


ふふ、さっきまで俺をバカにしていた受付と警備員の奴らが、俺を見上げている。


「俺が行かなきゃいけないのは、文科省じゃなくって、内閣府の方でしたぁ! 

 あはは! すいませんね、文科省レベルの話しじゃなかったみたいっす!」


 

受付の奥から、男が下りて来た。入館証を首から提げている。


『宮下正輝』こいつが俺の案内役か? 


とりあえず、今この瞬間、この場ではカッコつけていたいので、余計な口を挟まれたくない。


「あなたが、アースガード研究センターの杉山さんですか?」


 宮下が口を開いた。


「えぇ、一緒に内閣府に行っていただけると聞きまして。とりあえず、ここではなんですので、別の場所でお話ししましょう」


にっこり笑って、固い握手を交わす。


俺を見下した奴らに見せつけるように、豪快に。


「どうも、取り次いでいただき、ありがとうございました! あなた方のご協力のお かげで、こんなにも早く担当の方とお会い出来て、恐縮です。ありがとうございました!」


笑顔で手をふる。勝った。


こやつらがどう思っているのかは知らん、そんなことは関係ない。


この俺が今、十分勝利を確証し、非常に気分がよくなっているので、俺の勝ち。


とにかく勝った。


俺様の顔をしっかりと覚えておくがいい。


こののち、人類を翔大から救った英雄として、俺が有名になったとき、あぁ、あの時のあの人は、この人だったのかと気づいて、勝手に恥じ入りなさい。


そうさせるべく、俺はやるよ。


あぁ、やってやるさ。

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