第7話ムカデのおじいさん

とても大きな木に囲まれてとても小さな赤い鳥居がありました。その鳥居をちょっとしゃがんでくぐると、奥に古い小さなヤシロが見えました。その小さなヤシロには、とても大きなおさいせん箱と大きな金色の鈴がありました。せっかくなのでアリスはゴロンと鈴を鳴らし、パチンパチンと手を合わせてお祈りしました。

「おさいせん、持ってなくてごめんなさい。ケータイ早く持てますように。お願いします」最近のアリスの願い事は決まってこれでした。そう言って気がすむと、

「ムカデのおじいさん、いませんか?」と言いながらアリスはヤシロをぐるりと回りました。

「ワシを呼んだかね」その声はなんとか戦争のどうのこうのと書かれた大きな石の後ろから聞こえて来ました。

後ろをのぞきこむと、ドキッとするオレンジ色の頭をした大きなムカデが、手のひらの形をした大きな葉っぱを膝にかけて、背中を丸めて座っていました。

「ムカデのおじいさん、はじめまして。おじいさんはヌートリアをご存知ですか?」

「年を取ってもじいさんと呼ばれるのには抵抗があるなぁ。ああ、もちろん知ってるとも」

「あら、ごめんなさい。じゃあムカデさん。どこに行ったらヌートリアに会えるかしら」

「ぬめりを取るには、石けんが一番じゃよ。時々酸性のクエン酸も忘れずに使うことがポイントじゃな」

「え? ぬめりを取る? ヌートリアという動物にどこで会えますかって聞いたんですけど?」

「ぬめりの多い動物性の油であえ物を作るのもいいが、植物性の油で作る方がおすすめじゃな。特にアマニ油は体にいいぞ」とドヤ顔で話します。

「あ、ああ、じゃあマンホールを持って行って何に使うのかわかりますか?」

「マンホールを持っていくじゃと? そりゃきっと赤鉛筆を作るためじゃな」

「え? 赤鉛筆? マンホールですけど?」

「今時の若いもんは何も知らんのじゃな」ムカデじいさんはがぜん元気が出て来たようで、おもむろに手元にあったキセルに火をつけて、ふーっと一息ついて煙をくゆらせると言いました。

「マンホールは鉄で出来ているじゃろう。その鉄で赤さびができるじゃろう。その赤いのが赤鉛筆の原料になるんじゃよ」

「ええ? なにか茶色の色鉛筆ができそうなんですけど」

「関西エンペツの奴らがまた動き出したのかな? こりないやつらじゃ」

「関西エンペツ?」

「関西エンペツで作られた鉛筆や色鉛筆は学校公認の文房具として関西一円の全ての学校で使われとるよ」そして少し神妙な顔をすると続けました。

「いいかね若いもん。赤さびは鉄くぎで作るもんじゃよ。くぎの大きさで十分じゃよ。むか〜しマンホールをどこからか手に入れて大量の赤さびを作って赤鉛筆を大量に作っていたら、連日の大雨でさびがあふれ出し川も海も赤く染まって魚は死ぬは水道の水はまずくなるわで大騒ぎしたんじゃ。若いもんは知らんじゃろうね」

「はあ」

「若いもん、今すぐマンホールを探し出し、関西エンペツが赤鉛筆を作るのを阻止するのじゃ!」ますます元気に話すムカデじいさんでした。

「いったいどこに行ったらいいんですか?」

「そうじゃな、関西エンペツとゆかりの深いカピパラ首相が名誉校長になっている中央小学校がいいじゃろう」

「カピパラもいるんですか?」

「カピパラはいないよ。いるのはカピパラ首相じゃ」

アリスはきっとカピパラがいるんだと思ってわくわくしましたが、それ以上は言いませんでした。

「中央小学校はどこにあるのですか?」

「ここから町が一望できるじゃろう。真ん中に白く丸いドームが光っているのが見えるじゃろ。あれが中央小学校じゃよ」

「遠そうね」

「このすぐ横を流れてる川を舟で下るといい」

「遊覧船かなにか、あるのね?」

「大きな風呂おけがあるから、それを使うといい。では、健闘を祈る」

「行って来ます」なりゆきでアリスはムカデじいさんの特命を受けて中央小学校へ向かうことにしたのでした。

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