第6話大食らい猫

「ヌートリアですって〜?」低い声が後ろから聞こえました。ロンはびくっとして振り向くとあわててそれこそシッポをまいて逃げ出してしまいました。見ると塀の上にシマ模様の大きな猫が寝そべっていました。

ロンちゃんの姿はすでに無く、アリスは答えました。

「そうよ。ヌートリアを探しているの。あなたは知ってるの?」

「一度食べてみた〜いな」確かに大きい猫ですが、ロンちゃんが逃げるほどの理由はわかりません。

「食べちゃダメよ」

「あんたは食べないのかい~?」

「食べないわよ。私はヌートリアに、どうしてマンホールのふたを運んでいたのか聞いてみたいの」

「マンホールのふた!  あれは食えないやつですね~」

「もう食べ物のことばっかり。ところであなたは神社へはどう行けばいいか知ってる?」

「知ってる〜」

「どこなの?」

すると猫は大きく口を開けて言いました。

「この口が神社への入り口ですよ〜。さあどうぞ。あ〜〜〜ん」あまりに口が大きく開きすぎです。口だけの猫のように見えます。

「そんなわけないじゃない」

「アリス嬢ちゃんとやら、私をウソつきだと言うのですか〜? 偽証罪で訴えますよ〜」

「もういいわ、別の人に聞いてみるから」

それを聞くと口だけ猫は塀の上から飛び降りてアリスの前に立ちふさがりました。

「まず、私の口に入ってみてさ〜、それでも神社に着かなかったらさ〜、私をウソつき呼ばわりしなさ〜い。さ〜あ! さあ!」

いっしゅん、アリスは入ってみようかとも考えましたが、走り去ったロンちゃんの後姿を思い出しました。

「たぶん、別の道もあると思うのよね。だから別の道を探すわ」そういうとアリスは少しづつ後ずさりしてその場を去ろうとしました。

それを見て口だけ猫が突然ぴょ~~~んと大きく飛んだのです。そして口は大きな虫取りアミの様になってアリスを取り囲むようにかぶさったのでした。

「ボクやさしいから最後に言うけど〜、神社に行きたいなら〜、こちらへどうぞ〜。あくまであなたの意志でね〜」

湿った空気がアリスを包みます。目の前には奥が暗く赤っぽい洞窟が見えます。その入り口には大きなのどチンコが、こちらこちらとぷるぷる揺れているのです。ほとんど猫の口の中にいる絶体絶命のアリスでした。

アリスはあわてて後ずさりすると、背中がザラザラした猫舌のカベに当たりました。するとアリスのポケットから、ポロリと食べかけの肉マンが落ちたのです。アリスはやけくそになって、それを拾って洞窟に投げ入れました。

「いただきま~~~す」

そう言うとアリスを囲っていた大きな口はアリスを置いて口を閉じました。そしてアリスの目の前には元のシマ模様の大きな猫がいて、もぐもぐおいしそうに肉まんを食べているのでした。

そろりと逃げようとするアリスでしたが、大食らい猫はニタっと笑って言いました。

「神社はこの後ろだよ〜」

見ると、細い路地の先に鳥居が見えました。おそるおそる猫を避けながらアリスは急いで細い路地に入って行きました。

後ろから「ボクの口から入っても、そこに通じてたのに〜」と猫が言いましたが本当かどうかは分かりませんし、知りたくもないと思いました。

「でも、それは今の私が今の私のままでそこにたどり着けたかどうかは疑わしいわね」とアリスは言うと、ひどく自分で納得したのでした。

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