第5話ロンちゃん
神社はどこかな、と山手の方を気にしながら小走りで探していると、そこに
「あれ、あなたはアリス嬢ちゃんではないですか?」と声をかけてきた犬がいました。
見るとその犬はお向かいのロンだとすぐわかりました。服を着て立って歩いているロンちゃんでしたが、なぜロンちゃんだってわかったのかは不思議なんですが。(アリスもすっかりこの変な世界になじんできたって証拠やないでしょうかぁ?)
「やっぱりアリス嬢ちゃんですね。どちらへ行くんです?」
「神社に用があるの」
「ではそこまでご案内します」
ちょっと気取った風のロンちゃんです。でもそれも最初だけでした。
いっしょに歩いてると通りの向こうに白い小さな犬が近づいてきました。すると、
「おいおい、ここを誰の道だと思ってるんや!」とロンは急に口を大きく開けほっぺにシワを作りながら大声で怒り出しました。
「何言ってんの、ここはあたいの道だわ!」負けずに白い犬も言い返します。
「よ~くこの電柱の匂いをかげよ。ワイの匂いが付いてるやろ!」
「残念でした、あたいは去年からずーっとここにオシッコ付けてるんです~~。私の道になってるんでしたぁ」
「何アホなこと言ってんねん、ワイは十年も前からオシッコかけてるわ。ワイのじゃ」
「あたいは百年前からよアホ!」
「ワイは十億年前からなんじゃボケ!」
「だいたいお前は混血やんけ。ワイは血統書付き柴犬なんじゃ」
「あら遺伝子上は多様性が必要だってご主人様が言ってましたよ〜。遺伝子が単純だと頭も単純なのね~」
「伝統をなめんじゃねぇ!」だんだん声も大きくなって、言ってる事もわからなくなってきました。
「これって水掛け論っていうよりオシッコ掛け論だわね」アリスはおもしろいことを思いついたんですが口にするのは必死に我慢して、ロンちゃんを引っ張ってそこを通り過ぎました。
「まったくあんな奴がのさばっているから油断がならないんですよ」
「いっしょに仲良く使ったらいいじゃない」アリスがそう言うと、
「アリス嬢ちゃんまで何言ってるんです。テリトリーは命張って守らなあかんもんなんです。言ってわからない奴には力でわからせるしかないんです」続けてロンちゃんは、
「せやから最近テレビで見たファブリー☆って消臭スプレーを通販で買いましたよ。これであいつの匂いもきれいさっぱり消え去るでしょう」
「それじゃぁ、あの犬も同じもの買うんじゃないかしら?」
「そしたらもっとすごい武器を買えばいいだけですよ。オシッコの匂いを増強させるサプリとか、筋肉増強ドッグフードとか、電撃付きリードとかなんでも。なんせ家のご主人はお金持ちですから。はっはっは〜」
「きりが無いわね」ちょっとむなしい気もしましたが、まぁ犬だから、とアリスはそれ以上言いませんでした。
「ところでその神社にはムカデのおじいさんがいるって聞いたんだけど、ロンちゃん知ってる?」
「あんな虫くさいジジイに何の用です?」
「ヌートリアにどこに行ったら会えるか知ってるらしくて」
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