第3話つられてアリスは、
薄暗い中しばらく行くと、目の前になにやら白いものがふわりふわりと浮いているのが見えました。よーく見てみるとそれは中華まん? のようです。だって横に「55☆」の中華まんの見慣れた文字のふだが付いていたので。
「これってよくお父さんが出張帰りに買ってきてくれるやつ?」アリスは思わず手に取ると、ググッと手が引っ張られました。
「うわっ」とアリスが叫ぶと、
「うわっ」「うわっ」と逆に声が聞こえました。
「ほんまや、こんなエサで釣れるんや」
「このふだが決め手らしいで」
「そうなんや」
「ガキはがっついてるから釣るの簡単なんやで」
声のほうを見ると、魚の頭をした二人(二匹?)が釣竿を手にアリスを囲んでます。
「やだ、失礼ね」アリスはカチンときて言い返しました。「食べ物で子供をだます悪い奴がいるって先生が言ってたけど、あなたたちが悪い奴らなのね」続けてアリスは、
「だいたいお腹が減ってがっついたんじゃなくて、何かなぁ?と思って確かめるために手に取っただけですからね」ときわめて冷静に答えます。
「なんか言い訳しとるで」
「ほんま往生際悪いちゅうやつやね。がまんせんとそのエサ食べてええんやで」
「がまんしてません! だいたいあなたたちが釣られるほうで、私が釣るほうでしょう! 逆、逆なのよ!」
「これがうわさの逆切れってやつかな?」
「腹減って気が立ってるんやろ、がまんせんと食べてええんやで」
「違う、違うし!」とますます腹が立ってきました。
それを見てあきれて魚の二人(二匹?)は
「つきあってられへんわぁ」
「こいつ外道やで」(外道って釣り用語で目的外の魚が釣れた時使う言葉やね)
「まあボウズじゃなかっただけよしとしよ」(ボウズって釣り用語で何も釣れなかったときに使う言葉やね)
「ペットボトルが釣れるよりもましやな」
「せや、せや」「帰ろ、帰ろ」と言いながらそこを去っていきました。
「違う! 違うし!」二人(二匹?)の背中に向かってアリスはまだ叫んでます。
しばらくして冷静になると、
「あれは、川魚のブルーギルとイタセンパラだったんじゃないかしら。それにしては仲が良かったのは不思議」と動物大好きなアリスは思いましたが、なぜ魚がしゃべったり歩いたりしてるのかについてのツッコミはもうわいてきませんでした。
(ますますヤバイんやないでしょうか?)
二人(二匹?)が去ると急にお腹が減ってきました。まだ手にしていた中華まんからいい香りがします。くやしいけれど一口かじってみました。
「やっぱあるときやね」とつい口にすると、次の瞬間「ないときー」と叫んでました。
「アホやな自分」普段見るともなく見ているテレビCMの影響力をこんな形で実感したアリスでした。
「マンホールはなぜ丸い、それは転がしやすいから……」またあの声が聞こえました。あのヌートリアに違いありません。気を取り直してアリスは声のほうへさらに歩いていきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます