祈り

陽が西に向かうと共に、世界を侵食していく影が、闇を喚ぶ。

陽が西に消えると共に、冷気を帯びた風が、生命の暖かみを奪う。


夜、世界は暗く閉じられる。

闇がじわりと私の精神を侵食しては、私の恐れや、臆病さを露にする。




月が西に向かうと共に、影に染められた漆黒の闇が、浄化される。

星が西に向かうと共に、朝霧に薄められた青空が、眼を醒ます。


東の高い山の巓から、朝陽が射し込む時、ぼやけていた鷹の岩山が、その輪郭を露にする。


むくりと頭を上げる鷹のごとく。




古来から、この岩山が信仰の対象となった訳が、朝がくる度に否応なしに理解せざるを得ない。


生きた山と言えばいいのか。

陽の光を受けて躍動する、生命の煌めきに輝いている山が、鷹のごとく、その急峻な巓で、私に一瞥をくれ、語りかけるのだ。


鷹のごとく生きよ、と。


鷹が舞う。

朝靄をその風切り羽で切り裂いて、鷹が翔ぶ。

孤高であっても、威風堂々と。




朝陽に照らされ、語りかける岩山に祈りを捧げる。


御前がその姿を保つのならば、私も孤高であっても、闇を切り裂き、威風堂々と生きようと。


御前と同じく、鷹のごとく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大地の唄 ねことバス @nekoneko10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る