第二十二話 「仮面の中は」


やっぱりコイツ胸がある。間違いない。

俺は仮面野郎の胸を興味深く観察していた。オーロラ程の大きさではないが、明らかにある。


で、でも。マーヤは男の人って……。

一人、脳裏に浮かんだ疑問と格闘していると。


「あ、あの。ユウタさん……」


弱々しい声でユウタに話し掛けて来たのは、マーヤだった。


「なんだい?」

「さっきは……助けに来てくれてありがとうございました……。わ、私! 頑張るから、その……」

「ん?」

「何でも、ないです……」

「そ、そう」


何か言いたげな顔をしていたが、深くは追求しなかった。マーヤは俯き、地面を眺めている。そして、それじゃあ。と言って元いた場所へと戻っていった。



そんなこんなで、ようやく仮面の人物の用意ができたらしく。


「――さああ、行こう! 諸君!」

「ああ。てか遅せえよ、何分待たせたと思ってんだ」

「フフフ……すまんすまん」


心配気にアルレナが話し掛ける。


「ユウタァ……大丈夫なのー?」

「おう。大丈夫だ」

「ならいいけど……」


大きく胸を張った俺に対し、アルレナは適当な素振りで返事を返した。

マリアとオーロラは、牢の隅でなんかコソコソ話している。


「おーい! オーロラ、そろそろいくぞー」

「わ、分かりました!」

「ねぇユウタ! 私は! 何で私は呼ばないの!!」


オーロラの後ろでなんか文句を言ってるバカ女神は無視して。

同時にユウタが声を被せた。


「なあ、仮面。お前名前は何て言うんだ?」

「我か? 我の名は……。アルベルト―――……」


仮面の人物は言葉を詰まらせた。

ユウタは真剣な表情でまじまじと仮面の人物を見つめる。


「もしかして、分からないのか?」

「う……私は? 誰? 何が……」

「おい? 大丈夫か!?」


仮面の人物は、頭を抱えて何かと闘っているかの様にうなされていた。

いつもは直ぐに心配をして寄り添うオーロラも先程まで敵対意識があった人に対しては黙りこくっている。


――俺以外、誰もコイツに近づく者はいなかった。


「頭が……」

「おい! しっかりしろ!」

「―――」


如何やら気絶したらしい。呼吸はあるので死んではいないと思う。というより、アンデットだからもう死んでる。

さすがにオーロラも気絶したコイツを見ては見過ごせなかったらしく、遅れて寄ってきた。


「……仮面さん? 大丈夫ですか?」


オーロラの呼びかけに答えたのは、仮面の人物ではなくユウタだった。


「大丈夫なわけないだろ! こう言う時、どうするんだ!?」

「えーと…… ま、まず。仮面を!」

「わかった!」


ユウタは仮面に手を伸ばし、ゆっくり外す。

と、同時に。オーロラが、え?、と小さい声で呟いた。

オーロラだけじゃない、俺を含めた全員が驚愕を隠せなかった。俺の視線に飛び込んで来たのは、銀髪で銀色の瞳をした少女。見るからに女性その物だった。


驚愕した表情でアルレナが。


「お、おんな……」

「ど、どういう事だ? オーロラ……」

「え……わかりません。まず何で彼女は私達に男性だと。……それに、話し方や声も男性だったのに」


確かにそうだ。声のトーンも俺より低くて、話し方もバリバリ男だった。

――なのに、どうして?

そして少し遅れてマリアが彼女を指さす。


「ど、どういうこと? さっきまで、オッサン声してたじゃない彼女」


オッサン声って……

まあ、言いたい事は分からなくもないけど。

アルレナは、何か怪しそうに目を細めながら。


「ユウタァーやっぱコイツ怪しいィ」

「そ、そうですよ! やっぱり、仮面さん怪しいです!」


オーロラも同意の一声を挙げた。


「で、でも。女の子一人放って置くのも気が引ける……」

「ま、まあ。たしかにそうですね。取り敢えず、この人が気絶している間に拘束して……」

「拘束するのか!? どうしてだよ!」

「私だってしたくないですよ! でも、この人によって、ユウタさんに何かあったら私……」


そう言ってオーロラは顔を赤くしながら恥ずかしそうに俯いた。

恥ずかしいのは、オーロラだけじゃなく。無論、俺もである。

俺はその気持ちを隠す様に「おう」とだけ返事を返し、目を背けた。


「オーロラの言いたい事は分かった。けど、拘束はよそう。あの、仮面野郎でも今はただの女の子だ」

「そ、そうですね…… ですけど、この子がユウタさんに何か危害を加えようとしたら容赦なく拘束します」

「ア、アルレナもォー」


オーロラに張り合っているのか、アルレナも遅れて口を開いた。

そんなアルレナの言葉に俺は笑顔で返す。


「マリア、お前何してんだ……」


どう言うわけか、マリアは両手を顔にあててシクシクと泣いている。


「どうした? マリア」

「だ、だってえぇぇ! 仮面さんがこんな! こんな可愛い子だったなんてぇぇ!」

「……」




「マリアって、感情豊かだよな……」




泣いているマリアに俺が言える事は、それだけだった。





――1時間程、経った頃。


ようやく、少女が目を覚ました。顔色は良くなったものの、まだ調子は良く無いように見える。そして、少女は俺達に気付いていないのか、小さく呟いた。


「仮面は……どこ……」


少女は辺りをキョロキョロと見渡し。俺が左手に持っている仮面へと視線を向けた。

と、同時に凄まじい形相でユウタへと矛先を向ける。


「変え……せ。私の……仮面を変えせ……」

「え……、こ、これか? て、てか。どうして気絶したんだよ」

「……あああああああああ!」


仮面の少女は泣き叫びながら、腰に下げている剣を抜き。

同時にオーロラとアルレナに両腕をつかまれ、拘束された。流石は上級職の方々と言った所かな。俺が一歩に踏み出す前には、もう少女の右肩を捉えていた。


「離せえええぇぇ!」

「動かないでください!」


オーロラが慌て気味で少女を取り押さえる。


「動かない方がいいと思うなァー」

「お、おい。怖いぞ、アルレナ……なんか、目がガチだ!」

「どこがァー? 私はァただ、ユウタに手を出そうとしたコイツを制裁してるだけェー」

「いや、何でもないです…… で、お前。これ返して欲しいんだろ?」

「返せ…… じゃなきゃ…… また……」

「ほらよ」


ユウタは少女の顔に仮面を着けた。


「フフフハハ! 悪い悪い小僧! 取り乱してしまった!」

「お前……」

「ん、どうした? それより! 早く行こうではないか! 過去へ!」

「お前……、彼女から離れろよ」

「な、何を言っているんだ小僧! これは、我本体だぞ!」

「噓つけ。お前が気絶した時に、お前の顔見ちゃったんだよ……」

「な……」

「お前の顔は…… めちゃくちゃ可愛いかった!!」


俺の言葉の不意打ちが仮面の人物を切りつけた。


「え?」

「な、なに言ってるんですか! ユウタさん!」

「ユウタァ……!」


「え? なんかした? 今、俺なんかした!?」


もはや仮面の人物はどうでもいいのか、それどころじゃないのか。

拘束を解いて。

俺へと足を詰めらせくる。


「な、なんか。すいません!」


自分の罪を自覚していないユウタに対し、オーロラとアルレナは目を尖らせた。


どうする…… 後ろは壁。

つまり逃げ場が無い……


「お、おい。二人共いったん落ち着こう! 深く深呼吸! ね?ね?」


考えて見れば今まで、こう言う状況で二人が俺の話しを聞いた事は無かったな。

そう、覚悟を決め。


俺は、下唇を強く嚙みしめた――




どうしてか、拘束されているのは仮面野郎から俺へと変わっていた。

さっきまでの緊張した空気は何だったんだ。仮面野郎が俺を襲おうとして、アイツが拘束されたのに。


なんで俺が拘束されてんの。


――しかも、アイツ。ピンピン動き回ってるし。

明らかにいけ好かない表情をしている俺を見たオーロラは、プー頬を膨らませて。

フン、と言って、俺から目を背けるのだった。


「おーい。オーロラさーん。アルレナさーん。いい加減、この縄ほどいてくださいー」

「「いーやー!」」


返答は、同じであった。



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人と魔物とステファのカナタ 白猫 恵/ 灯 @Shiraishi_Akari

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