第二十一話 「時間旅行 Ⅰ」


マリアが俺に抱きつくのを見たアルレナは、嫉妬心かそれとも欲望に飲まれたのか。俺の事を鋭い目つきで睨んでくる。


「ユウタァ……」

「は、はい!」

「離れて」


アルレナが腰にある短剣に手を置いてこちらへと迫ってくる。


「いや、マリアが……おい! マリアさっさと離れろ!」

「いやああぁぁぁ!!」

「ユウタァ」

「……いや、何故!? 何故、俺?」

「うるさい」

「はい」


年下の少女に言い負かされるとは、思っても見なかった。

そんな、茶番を見させられていた、仮面の人物はへ?と呟きながら首を傾げている。

そして、目線の先をオーロラがスタスタと煌びやかに歩いてきた。

何故だか、オーロラもアルレナと瓜二つの表情をしている。


「ユウタさん……5秒あげます……離れてください」

「いや、なんで!? 抱きついてるの、マリアでしょ!? え?」

「そ、そんなの。関係ありません!」

「ふぁ!? いやいや! もう、早く離れろって! マリア!」

「いやああぁぁぁ!!」

「おい」


マリアは、泣きっ面で未だ力強く俺に抱き着いている。


「ああ!」

「もうゥ!」


石造りの牢屋に突如、放たれた声にぎょっとした。

視界の端から怒髪天を衝く、二人の少女が俺からマリアを引き剝がそうと迫っており、声を無くしてしまう。


「――――」

「ユウタさん! 今のうち離れて!」

「え? あ、うん」


ぎゅっと、抱き着いていたマリアを剝がすと二人はその衝撃と共に床に倒れこんだ。

そして、思いもしなかった言葉に顔を上げた。


「どうして、ユウタさん……」

「――え?」


ポツリと投げかけられた呟きにユウタは首を傾げる。

そんなユウタを見たオーロラは、眉間にしわをよせ身体を震わせながら。


「どうして―――ッ!? こんな、バカ女神と抱き合ってたんですか!! 」


……え?


―――途轍もなく理不尽な事を言ってきた。



「ちょ、ちょっとまて。さっきの出来事でアルレナが怒る事は、分からなくもないけど……、なんでオーロラが怒っている?」


そこまで意味のない俺の問いかけに対して、オーロラは現状を把握したのか。それとも、自分の過ちに気付いたのか、突然――


「すいませんでした!! 」

「いや、土下座はいいから……」


てか、女神でもjapanese dogezaは知っているのか。

まあ、そんな事はどうでも良くて。


――俺はさっきまでかんぜんに完全に忘れていた仮面の人物へと視線を向けた。

と、同時に仮面の人物も俺の視線を察したのかへの字姿から、先程同様の痛い人へと戻った。


「フフフ……話しが長いぞ君らは!」

「いや、悪い。俺もさっさとお前をぶっ殺したいんだけどね。ちょっと、邪魔が入った」

「ぶっ殺……。フハハハハハ! 大口を叩くではないか小僧! 」

「いやいや、それ程でも」

「褒めてないです」


そう口を挟んだのはオーロラだった。

ユウタは咳払いをした後。


「……で? 過去がなんだって?」

「おっと、忘れていた。小僧、私と一緒に過去へいくぞ! 」

「いや、なんで? 俺に何か利益でもあるの? 」

「フハハハ。そう言うと思ったぞ! 安心しろ、ちゃんと利益はある……。その前に、ちょっと確認したい事があるのだが。小僧”ステファ”だな? 」


その言葉に反応を示したのは俺だけじゃなかった。

まずオーロラ、そしてアルレナ。

マリアは首を傾げてすっとぼけてる。


「仮にも俺が”ステファ”だとしたらなんだ? ――その質問に何の意図があるんだ? 」

「もしも、小僧が”ステファ”であるなら……。”ステファ”についての秘密が知れるかもしれん」

「―――ッ!?」


ステファの秘密。

それは異世界に転生した物が天使から授かる勇者の恩恵ではなく。他の何物かの手によって授かる勇者を凌ぐ程の圧倒的な力。その秘密を知れる。

今まで謎とされてきた、ステファの秘密を。解き明かす事が……

誰に言われたからとか、あの人に言われたとかじゃない。俺がこの俺が一人で決断した答えは。


「行こう」

「フフフ……そう言うと思ったぞ。では――」

「ちょっと、まったああああぁーーッ!!」


――突如、横やりを入れて来たのはまたしてもオーロラだ。

相当焦っていたのか、ただつまずいたのか。オーロラは顔面から地面に突っ込んでいった。

そして、痛がる素振りさえ見せずにユウタに顔を近づける。


「どう言う事ですか!? 行くんですか、私達を置いて! この大事な私達を置いて!! 」

「ええ……? 大事……??」


ユウタは顔を引きつりながら頭の上にハテナマークを浮かべた。


「そうです! 大事でしょう? 大事じゃないんですか? この可愛い三人を! ていうか、ユウタさんが行ったらこれから私達どう生活していけばいいんですか!? 」


おい。いま、おかしな事ポロっと口に出したぞこの女。

何よりも、その事に気付いていないし。

ふと、アルレナの方を向くと案の定アルレナも冷たい視線を送っていた。


……クソ!なんて奴らだ!


「わかったよ! したら、お前達も連れてく、それでいいだろ! 」

「おいおい。小僧、レディー達を連れて行く事なんて出来るのか? この私でも、このお嬢さん一人でギリギリなんだぞ」


そう言ったのは仮面の人物だった。


「うるせえ! 俺はステファだぞ、それくらいは出来る」

「そ、そうか……」


あれ? さっきの威勢は……?

何か今の会話一方的に俺がぶつけているだけみたいに……。


「な、なに言っちゃてるんですか! 私達も連れてく!? いくらステファのユウタさんでも限界がありますよ! 」

「そうよユウタ! いくらアンタでもこの女神様を過去へ送るなんて不可能よ!」

「………」


オーロラとマリアは、仮面の人物と同じ疑問を浮かべていたらしい。

アルレナは特に何も言わずに俯いていた。


「うるさあああああいい!! 出来る俺なら出来る! 」


俺は何の確信もないまま出来ると断言した。

この判断が、後に不幸を呼ぶ事も知らずに―――……





俺達は今いる世界(現実)から抜け出して時間旅行を行おうとしていた。

――それも、6人での時間旅行だ。さっきオーロラに聞いたんだけど6人での、時間旅行は前代未聞らしい。


時間旅行。

それは大昔から伝わる幻の魔法を使い行う事ができる物。だが、時間旅行によって過去改変を起こしてしまうと、大きなタイムパラドックスが起き。未来が変わってしまうのだ。

その為、時間旅行は人類の記憶からほぼ抹消され、大昔の伝説となった。


ユウタ達はそれを今から行おうとしている。

しかも、仮面の人物は歴史上死んだ先祖を生き返らせる為に行くとか何とか。

取り敢えず、先祖を生き返らせる事によってタイムパラドックスが起きることは確定している。


つまり何を言いたいかと言うと、俺達はこの世の中で誰よりも頭がいかれたことをするって事。

オーロラは出発直前の今でさえ反対の言葉を発していた。


「ユウタさん。やっぱりやめませんか? 過去改変なんて……この世界を壊すどころか沢山の命を奪う事に……」

「うん。それを踏まえて俺は決断したんだ」


その言葉にオーロラは納得出来ないのか、不満気にハァっと小さい溜息をこぼした。

そんなオーロラを見てユウタは現実から目を背ける様にして、目をそらす。


「ユウタァ。いつ出発するの……? 」

「もうそろそろだよ」


さっきまでは冷たい視線を送っていたアルレナも、今となってはユウタにべったりだった。


「ユウター。私眠いわ、宿に戻って寝てるからパッパッと過去改変して来てー」


さっきまではオーロラ同様、時間旅行反対派にいたマリアは時間が立つに連れて中立派、そして数分後には賛成派となっていた。

やはりこのバカ女神に一回自分が決めた事をやり遂げると言う思いも信念も一切無いらしい。


「おお。いいだろう、なら一人で歩いて帰れよ、宿まで。それに、俺たちが現在に戻って来ると言う保証は無いんだぞ。そしたら、お前どうやって生きていくつもりだ? まさか、女神パワーで食べ物を出せるなんて言わないよな?」


マリアは顔をしかめる。


「う……、しょ、しょうがないわね! この、最強ライト・ウィッチさまがお供してあげるわ! 」

「――いや、いいです。何処かの無能女神なんていりません」

「ユウタァァー! ごめんなさいい! 私も連れていってぇぇー!! 」


うん。いつも通りのバカ女神だ。

ユウタは、足にへばりつくバカ女神を引きはがし、なにやら準備している仮面の人物へと視線を向けた。仮面の隙間から、銀色の瞳が見えている。


「なあ。仮面さん、まだ準備できないのかー」

「ちょ、ちょっと待ってくれ小僧……、私も色々あるのだよ」

「そ、そう……」


なんかもう、この人キャラが変わり過ぎて何とも言えない。

――そしてユウタはある事に気が付いた。



あれ、この仮面の人物。胸ない……?



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