第二十話 「仮面の人物」


アルレナの拳によって崩れた、石造りの床の上にアルレナとマリアは、驚愕した表情を見せながら、立ちすくんでいた。彼女達の目先には、見えない程の速さで飛び交う、攻撃魔法。

その魔法の中を颯爽と飛び交い、互いに激しい攻防を繰り広げるユウタと仮面の人物。

迷宮の一部が崩壊したと言うのに、二人はその事に何の反応も示さ無い。


「ア、アルレナ……あれ、ユウタよね?」

「うん」

「なんで、あのヒキニート&二次元オタクが戦ってるの?」

「ヒキニート&二次元オタク?」

「おっと、貴方は知らなくていい言葉よ」

「ふーん」

「それより! アルレナ、これは一体どう言う状況なの?」

「分からないィ……あ、ねえマリア。あれ、オーロラじゃないィ?」

「ん? どこどこ?」


そう言って、マリアは目を細めて遠目をしながら、アルレナの言うオーロラを探す。

マリアの視界に入って来たのは、とある少女を自身の後ろに隠しながら、心配気にユウタを見つめるオーロラだった。


「い、いた! でも、なんでオーロラがここに?」

「分からないィ。その事に関しては後でユウタに聞くゥ」

「ちょ、ちょっと! アルレナ! 目が、目が凄いわよ!」


アルレナはその言葉に、いたく矜持きょうじを刺激されたのか苦虫を嚙み潰したような顔をする。そして、恋敵でも見るかの様な瞳で、オーロラを鋭い目で睨む。

対し、アルレナを見たマリアは、屍でも見たのか顔を引きつらせている。


「目?」

「そう、そうよ! 目が……目があああぁぁ―――ッ!!」

「……ん?」

「おっと、また口が滑ったわ。聞かなかった事にしてちょうだい」

「う、うん」


――その後アルレナは、やはりオーロラを睨んでいた。





光の速さで、攻撃魔法が飛び交う。この定められた空間を意識し、定められた魔法を駆使してこの相手――仮面の人物と戦わなければならない。

最初は、俺の最短詠唱にやや押されていた仮面の人物も、今ではそれに対しての対処を完璧に身のこなしている。

そして、現在――次第に戦局が仮面の人物に傾きつつあった。


「クッソ! お前、しつこいんだよ!」

「フハハハ! この我が、貴様なんかの魔法に当たる訳がなかろう!」

「ああああ! イラつくわあああぁぁぁ!! お前!」

「いいぞ! いいぞ小僧!」

「はあぁぁ!! ”炎の精霊よ、我に力を” バースト!! 」


俺の詠唱と共に、魔法陣が徐々に形成され。

石造りの空間が、激しい熱風と共に燃え尽きていく――。

対して、仮面の人物は怯む事無く何なりと”バースト”を華麗に交わす。


「はああぁぁぁ!! たまらん! 上級魔法を何回も打ち込むとは! はああああぁぁぁ!! たまらんあああぁぁぁ!! 」

「キモイわ! 」

「フハハハ!! 小僧! もっとだ、もっとこい!」

「変態いいいい!! ”炎の精霊と、我に力を” ヘルシオ!!」

「フアアアァァ―――ッ!!」


仮面の人物は、変な叫び声と共に俺の攻撃魔法――”ヘルシオ”に突っ込んでいった。

俺は、そんな不可解な行動を取った仮面の人物を蔑むような目で眺める。


「アァァ! 溜まっていくううう!!」


おい……コイツ本気でヤバいぞ。

内心そんな事を呟きながらも、俺は止まる事無く。仮面の人物に上級魔法をぶち込んでいく。


「えーとー、”光の精霊よ、我に力を”ライトクロス!!」

「ふわああァァ!!」


いや、魔法は絶対当たっている……筈。なのに、仮面の人物は、自身の体に傷一つ付けず。悠々と立っている。


「おい! お前、なんで死なねえ!」

「我は、不死身だアァァ―――ッ!!」

「は!?」

「フ……、我はもう数年前に死んでいるのだよ!」

「死んでるのかお前」

「ああ、そうだ……私は、魔力を使い現在生き延びているアンデッドだ!」

「え?じゃあ、今まで……」

「ああ、小僧の魔法で切れかけていた魔力を回復していた」

「おいいいい!!」

「フハハハ―――ッ!!」


床をドンドンと拳で叩き、悔しさをさらけ出しているユウタに対して、仮面の人物は――不敵な笑みを浮かべている。


「それと、だ。我が単純に魔力を貯めていたかと思うか?――否。我は、過去に戻る為の魔力もためていたのだ! 」

「は?」

「わからぬか小僧! 元々、そこの娘の裏にいる少女が持っている魔力だけでは、過去には戻れぬのだ。だが! 魔力を我とテザリングする事により、過去へ戻るのだああああ!!」

「嘘だろ……」

「ユウタさん! 何してるんですか!!」


そう言って、オーロラは表情を歪めている。


「ええ!! 俺、お前とマーヤを守ってたんだよ!? え?え?」

「そ、それは……ちょっと、嬉しいですけど。何してるんですか!?」


歪めていた顔が、一瞬赤くなったがすぐさま、その赤面はプイとそっぽを向いてしまった。

対して、俺の顔は青ざめている。


「えぇ……」

「よし! 小僧、我と一緒に過去へいくぞ!」

「――は?」


――突如、仮面の人物は訳わかんない事を言い出した。

俺は、口を開けたまま優柔不断な仮面の人物を見ながら固まっていた。


「……ユウタ!」


その時、高い声が通った。

仮面の人物は静まり返り、ユウタもまた動きを止める。

ゆっくりと視線を傾けると、その声の持ち主は紛れもない――アルレナであった。

竜使い特有の黒い服を身に纏い。スタスタとこちらへ歩み寄って来る。

そして、後ろからは少し怯えた表情を見せるマリアの姿、


「ど、どう言う事? ユウタァー」

「え、あの。その……」


突然の出来事に、言葉が詰まる。

そんな、態度を見たアルレナはスッと目を細めた。


「その? なに、そのなに?」

「なにこれ、怖い!」

「ユウタァー。なんで、こんなババァと一緒にいるのォ?」

「こらこら、アルレナ。口が悪いぞ」

「………」

「おい、待てアルレナ! その短剣は、何に使う!?」

「さァー?」

「怖い、怖いよ!」

「フフフ……ユウタは、私の物……一緒に死んでェ」

「ちょ、ちょっと! 待て! まてえええええ!」

「フフフ……」


――なんか、変な笑い方したアルレナが迫ってくる!!

そうして、俺は石造りの空間を走り転げ回る。


「ちょ、ちょっと! アルレナ! こんな所で、ユウタを殺したらだめよ!」

「マリアああぁぁぁ! お前、実は――」

「魔王討伐出来ないでしょ! 魔王討伐したら、いくらでも殺していいから!」


おい、俺の期待を返せ。バカ女神。


「おい、バカ女神!」

「バカじゃないですぅ~ユウタより、頭いいですぅ~」

「いや、お前よりは絶対いいですぅ~、てか。前にこの世界は、 とか言ってたくせに今は俺の方が圧倒的に強いんですけどぉ~どんな、気分ですかぁー? この前まで、雑魚扱いしていた男に実力を抜かされる気分は! それと、もうお前仲間に必要なくないですかぁー? 何の、魔法も使えない雑魚ライト・ウィッチさんーよおおお!!」

「う、ううぅ……ユウタが……ユウタがああぁぁぁ!!」


バカ女神は、目尻から大量の涙をこぼしながら、何故か俺に抱きついてきた。

大体分かっていたが、アルレナがガチギレ寸前なんだが?

お願いいたします。マリアさん、今すぐ離れてください……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る