第十九話 「特別な人材」
目を開くとそこはロウソクの炎が、悠々と灯されている小さな石造りの部屋だった。
その一角に、鉄の柱で出来た牢屋があり、その中に黒髪の少女――マーヤがボロボロの布を羽織り、うずくまっていた。
「お、おいー、マーヤ?」
「――――」
俺の儚げな問いかけにマーヤは何の反応も示さなかった。
返って来るのは、牢屋にこだまして響く俺の声だけ。
「マーヤ!? 分かるか? 俺だ、ユウタだ!」
「ユ、ユウタ……?」
泥で汚れた顔を、ゆっくりと上げ首を傾げているマーヤ。
それに対し、俺はこことぞばかりに大きい声で、
「そうだ! ユウタだ!」
「私……どうして」
「待ってろ、いま出してあげるから。”アンロック”!」
鉄のドアが、重い音を立てながら、ゆっくりと開く。
そして、マーヤは牢屋から自力で出てきたものの、一度上げた顔を再び下げて俯いた。
再び静まり返る場の空気――。
「なあ、マーヤ。君をこんな場所に連れてきたのは誰だい?」
「……それは、見たことも聞いた事も無い、一人の男」
「一人の男?」
「うん。――あの日、私は、いつも通りお店のお手伝いをしていたの、そして。一人の男がやってきて、気づいたらこの牢屋に……」
「そうか……、その男の特徴は覚えているかい?」
「いや、覚えてない……でも、その男、肩に竜の紋章を付けてた」
そんな、マーヤの言葉に一番反応したのは、俺ではなく、隣で立っているオーロラだった。
「竜の紋章!? そ、それは。本当ですか!?」
「は、はい……。なんか、その竜、口から炎を吐いていました」
「ユウタさん……その紋章、”アルベルト”の紋章です!」
「じゃ、じゃあ。マーヤをさらったのは……”アルベルト”と関係がある人物って事か?」
「はい、その可能性が―――」
突如、オーロラの声を遮る様にして、響く拍手の音。――その音は、こちらへと徐々に距離を詰めてくる。対し、俺とオーロラは、マーヤを自分達の後ろに隠れる様、前へ出て戦闘体制をとった。
現れたのは。仮面を被り、肩にドラゴンの紋章を付けた人物、
仮面の隙間から見える瞳は、ロウソクの灯にでさえ反射して輝いて見える、銀色の瞳。
「驚きだ、ここまで来れる人がいるとは、どうやって来たのだ? なの、途轍もなく長い地下迷宮を抜けて来たのか?」
「いや、転移魔法の”テレポート”を使った」
「え……? ええええぇぇぇ―――ッ!?」
仮面の人物は、俺の発言を聞いて動揺のあまり、腰を抜かしている。
そして、仮面の人物は正気を取り戻したのか、スッと立ち上がり一人でブツブツ呟いていた。
オーロラは、仮面の人物を見るなり。眉間にシワを寄せ鋭く尖った目で見つめている。
「なあ、仮面さん。どうして、マーヤを誘拐した?」
「な、なにを! 誘拐ではない! 」
いや……誘拐だろ。
内心そう思いつつ、俺は仮面の人物の話を続けて聞いていた。
「我は、先祖。”ニーファ・アルベルト”様を救いに行く為、この子をずっと探していたのだ……そして、探し始めて15年……ようやくこの子を見つけ出したのだ! フハハハ――!!」
「は? 何言ってんだ?救うって、もう大昔に死んでんだろ」
「フフフ……あまい! あまいぞ小僧! 過去へ行くんだよわたしは!」
「か、過去!?」
オーロラは、仮面の人物の発言に対し、強く反応を見せた。
「ど、どう言う事ですか!?――過去へ行くなんて、無理です!」
「ハハハハ! 娘よ、よい反応を見せるではないか!」
「……は、はぁ」
「そうだ、常識的には無理だ! だが、常識外れの能力を持った人物がいればどうだ?」
「常識外れ……?」
「ああ、そうだ。もし、過去へ戻れる能力を持っている人物がいたとしたら?」
仮面の人物の問いかけに、オーロラは唾をゴクリと飲み口を開いた。
「過去へ戻る事は、可能です……」
「そうだ、そうだとも! 分かっているではないか!」
「だ、だが。マーヤとは、何の関係も無いだろ!」
「――いや、ある」
「どうして!?」
「その少女が、常識外れの能力を所持している人物だからだ! 我は、この少女を見つけ出す為、何人少女を誘拐――では無く、ここに呼び出した事か……」
……いや、いま完全に誘拐って言ったよな。自覚あるんじゃねーか。
仮面の人物は、自分の間違いを疑っていない様子で、そう言い切った。
「そうか、お前マーヤを見つける為に、少女を誘拐していたのか!」
「そうだとも! そして、違ったら。しっかりと記憶を消した!」
記憶自体を消されたから、マーヤの友達は何をされたか口を開かなかったのか。
そして、仮面の人物は悠々と口を開く
「さあ、汝よ。その少女を我によこすのだ」
「やだ」
「……は? ん? お、お前は何を言っているんだ」
俺の発言を聞いた、仮面の人物はキャラを台無しにする程、意表を突かれていた。
俺は、分厚い石造りの牢屋に響く程の大声で――。
「お前、自分の目的を達成するが為に、マーヤを巻き込むな!! 」
「え? いや、お願いいたします。本当に、このままだったら、我が家系が貴族では無くなってしまうのだ……」
「そんなのどうでもいい……お前の家系がどうなろうと知ったこっちゃない。ただな、かって勝手にマーヤを巻き込むな!」
「フフフ……そうか、君なら分かってくれると思ったよ……では、消えてもらおうか!」
♢
日光の光が届かない、暗く肌寒い洞窟の中を少女達は進んでいた。
行き先も、わからぬままただユウタの存在を信じて――。
少女達は、普段見せもしないはにかんだ表情をしながら足を進める。
「ユウタ……」
その声は、ユウタには届かない。小さい弱々しい声だった。
地下迷宮――街の地下に作られたトンネル状の建造物。そこから、信じられない程のエネルギーを感じた。
その莫大なエネルギーは、紛れもなくユウタのエネルギー。魔力ではない、違った強い力――。
「ねぇーアルレナーまだ出れないのー」
疲れ果てた者の声、その声をアルレナはこことぞばかりにガン無視した。
そして、よろけながら歩いているマリアを置いていく様に、スタスタと足を運んでいく。
「待ってぇぇ!」
弱みを吐きながらも、マリアはアルレナの後を追う。
彼女達が地下迷宮に入り、もう12時間が経過していた。
心も体も弱っている筈、なのに彼女達は足を休め様としない。
「マリア、早く」
「わかってる!」
「そうゥ……」
ドンッ!!と、大きな地響きが地下迷宮内に響き渡っていた。
「ねえねえ、アルレナーこの、地響きなに?」
「分からないィ。でも、その地響きが発生している所に膨大なエネルギーを感じる」
「……はぁ。もう、なんなのーユウタとオーロラは、消えるし。アルレナのいきなり地下迷宮に行くとか言い出して」
「私は、一人で行くと言ったァ。勝手に、ついて来たのはマリア」
「そ、そうだけど……」
「なら、黙って歩くゥ」
「はーい」
あからさまに、面倒な表情を見せたマリアに対し、アルレナは何も言わず、何の反応も見せる事なく、足を進めていく。
――そして、突如アルレナが急ぎ足を止めた。
そして、固唾を飲にながら見つめてくるマリアを見た後、ゆっくり口を開いた。
「マリア……この下、莫大なエネルギー反応がある」
「へえー」
マリアは、ぐったりと前屈みになりユラユラ両手を揺らしている。
「ここ、ぶっ壊していいのかなァ?」
「いいん、じゃない? どうせ、誰も来ないわよ」
「わかった」
そう小さく頷くと、右手に思いっ切り力を集中させ床をぶん殴った。
それと、同時に石造りの床が崩壊し、アルレナとマリアは地面に沈んでいく。
「ちょ、ちょっと! アルレナ! 何をしてッ!?」
「えェー。だって、マリアがいいよって言ったからァ……」
「いや、言ったけど! 言ったけれども!これ駄目よ!」
「うん」
「うん。じゃない! うわあぁぁ!!」
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