第十一話 「酒屋の女将」


「どうする……ユウタ?後つけて見る?」

「ああ、だな。つけるぞ……」

「ええ……」

「いいか?アルレナ」

「うん……いいよォ」

「わかった」


この街の地下には、沢山のトンネルが繋がっては途切れ、迷路の様になっているらしく。

余りにも物騒な為、町民でさえ入らないのだとか……。

何年か前に一度、埋め立て案が上がったようなのだが……どこかの何者かによって横やりが入り打ち消しになったらしい。

この、トンネルが作られた理由は不明だ。


そして、俺達は先程見た男達が消えたトンネルへと足を進めた。


――トンネル内は、高さが約二メートル程で男の俺でもまあまあ余裕に通れる広さだ。

だが、裏道より肌寒く霊気を感じる……気がする。

アルレナは、相変わらず俺の左腕にくっついている。それに対し、マリアは先程同様――ずんずん進んでいってしまう。

恐怖と言う物を知らないのだろうか?


「どっちかしら?」

「さあ?」


数歩、進むと別れ道に出た。

――無論、来た事も無いのでどちらに行けばいいのか解らない。

このまま進んでも、迷子になるだけだここはトンネルから出た方がいいと思うのだが?


「なあ、マリアトンネルから出るぞ、これ以上深くに進んでも迷子になるだけだ」

「ええー、まあ、そうね戻りましょう」

「ああ」


そうして、俺達はトンネルを後にした。


――今度、一人で調査でもして見るか。



トンネルを出て、宿に戻り数時間休憩した後、俺達は夕飯を食べる為に夜の街へと繰り出した。

夜の街は、昼間の街とはちょっと雰囲気が違う。なんか、大人な感じだ――。


「ねえ、ユウタ。あそこの、酒屋行きましょー!」

「ああ、俺はいいが……アルレナはいいか?」

「うん」

「てか、アルレナ。酒飲めるか?」

「飲めるゥ!」

「あ、ああ。そうか、ならいいんだけど……」


この時の俺は後にアルレナが大変な事を引き起こすなんておもっても思ってもいなかった――。

そこの酒屋は、日本でいう所の高級寿司屋的な感じになっている。カウンターにテーブルが設置されておりそこでお酒や食べ物を飲み食いする様だ。


店内は、外見と伴わずかなり広く。大勢客が入ってもどうってこと無いだろう。


「いらっしゃい!」


元気のいい声で迎えてくれたのは、30代前半位の女性。

見た目はかなり若く、年の割には余り老けていないように見える。

そして、俺は頭を少し下げ挨拶をしカウンターの席に着いた。


「女将ー!お酒ー!」


そう元気よく声を上げたのは、マリアであった。

まあ、バカだから緊張もクソもないんだろう……。


「お、お前。知り合いなのか……?」

「知り合いも何も、この人――私の先輩女神よ?」

「は―――……?」


首を傾げる俺だが、それに対し女将は慌てた様子でマリアに話しかけた。


「ちょ、ちょっと!マリア駄目よ、その話はこの世界では秘密なんだから!」

「あ、そうだったけ?」

「そうよ!!」

「ごっめーん!」


なんだろう……俺に言っている訳じゃ無いだろうが無性に腹立たしい。

一回殴ろうかな


「おい、マリア。このおば……お姉さんが女神?」

「そうよ!ローマの女神、オーロラよ!」


そう答えたのは、マリアではなくオーロラであった。なんか、やけに自信満々なんだが……この方もマリア系のお方なのか?

両手を腰にあて、俺を見下しながら胸を張っている。


「あ。そうですか……お邪魔しました」

「ちょっとまったああああ!!」


アルレナを連れて店を出ようとした俺をその女将&女神は、無理矢理俺の右腕を掴み再び店内へ引き戻した。


「フフフ……ユウタさん。このお店、あっち系もやってるわよ?」


――なんか、30代のおばさんが色目で俺を見てきます。誰か助けて下さい。


「いえ、結構です」

「ちょっと待ったああああああああ!!」


しつこいぞ!――このおばさんしつこいぞ!!

さっき同様、オーロラは両手で俺の腰をつかみ店内へ引き戻す。


「なんですか?」

「いかないでええ!!」


涙目になって、俺を見つめている。

あ……分かった。――この人、マリア系の人だ。


「なんなんですか!」

「お願いします!最近、客入らないのよ!だから、お金持ちのユウタさんに……あっ!」


オーロラは、顔色を変えて顔をつぶしている。

あれ?どうしてだろう……俺が金持ちになった事、マリアにしか言ってないんだよなぁー?

俺は、目を細くし尖らせマリアを睨んだ。

そんな、俺の反応を見たマリアは、顔を逸らしてぴゅ~ぴゅ~と下手な口笛を吹いている。


「おい」

「あれ?どうしたの、ユウタ?」

「――お前、言ったのか?」

「言ってない」


……コイツ、とぼけやがった。


「言わないなら夕飯代自分で払ってもらうぞ」

「はい。言いました」


――即答。

コイツは、自分で決めたことを貫き通そうと言う心は無いのか……。

俺は、一回頷き顔をオーロラの方へ向ける。

オーロラは、作り笑いで俺のご機嫌を取っている様だ。


てか、人間の俺が女神にご機嫌取られるってどういう事だよ。


「ねェ。ユウタ……このおばさんやだァ違うお店いこォー」


あっさりと、途轍もなく酷い事を口にしたアルレナは俺の左腕を軽く掴みお店の出口へと足を進めた。

それに対し、オーロラは先程までの下手な作り笑いを完璧に崩し。慌てて俺の右腕をがっしり掴んでくる。

その瞬間アルレナから俺の腕がするりと抜け体がオーロラの方へ倒れ……


――俺が、オーロラを押し倒す形になった。


「いやーユウタさんったら」

「い、いや……これは、不可抗力で……」

「そ、そんな。事を……」

「ちょ!やめてくださいよ!俺が、押し倒したみたいじゃないですか!! 」


慌てて、今の出来事を不可抗力だと説明する俺だが――。

アルレナの表情が凄まじい事になっているんだが?


「ねェ。ユウタ……」

「は、はい!」

「そこ座って……」

「は、はいー!」

「正座」


椅子に座る体制から流れる様に正座へとチェンジする。


「……でェ?」

「あ、あの。なんか、アルレナ怖いぞ……」

「うん」

「え……?」

「うん」

「すいまっせしたああああああ!!」


年下の少女に土下座する俺……。

途轍もなく、虚しいのだが

全力で土下座したが、アルレナの目は完璧に死んだ目だ。


「―――」

「な、なんか言ってもらわないと……」

「―――」


なにこれ、怖い。

え?いつもの、アルレナは!?何処に……。


「お、女将!! 酒!!」

「は、はい!!」


俺の言葉を聞いて何かを察した女将――オーロラは風のように透明で輝くグラスにお酒を勢いよく注ぐと慌てて俺の元に運んできた。

俺は、その酒を取り――。


「アルレナさん!酒です!これでも飲んで下さい!! 」


そう言うと、アルレナはグラスを奪うように取っていき勢い良く飲み干した。

俺は、再び正座に戻る。




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