第六話 「始まりの街 Ⅵ」



――痛い。


朝目を覚まして、感じた感覚はその感覚であった――背中、腰、首全てが痛い。

まあ、当然と言ったら当然である。だって、俺

ギルドに置いてある、木で出来た椅子で寝てたんだから。


ギルド内は、酒とカビが混ざって途轍もなく異臭が漂っている。そんな、中で俺は一晩越したのだ。


そして、体中を痛めた俺とは真逆でマリアはスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てながら寝ている。

俺は、そんなマリアを見てふと疑問に思った。


コイツ、ホントに女神なのか?


もし、コイツが本物の女神だったとしてコイツを信仰している信者達がこの姿を見たらどう思うだろう……。

こんな、小汚いギルドで寝ている女神の事なんて信仰したくなくなるだろうな、

それでも、まだ進行する人がいたらその人も中々の変わった人だと思う。


「おい、マリア起きろ」

「ん~、おっきいパンケーキだァ~」


起きる気配は一切無く、おっきい寝言を発するマリア

如何やら、パンケーキを夢の中で食べている様だ。


「おい、起きろ」

「ん〜ん……ハッ」

「……」

「ここは?」

「ギルドです。それと、お前寝すぎ」

「ふぇ……」


俺の言葉に対し、まだ夢から覚めていないのか、寝ぼけているのか分からない反応を見せるマリア、

よだれを垂らしながら、眠と起の間をさまよっている。


――そんな、幸せそうな寝顔のマリアを見た俺は昨日と同様、背中に下げている木の棒を抜き出してマリアの頭上にセットし、

スイカ割りでもするかの様に思いっ切り振り落とした。


「はあっ!!」


ガンッ!!と音を立て、マリアの頭に直撃する。

そして、マリアは幸せそうな寝顔から打って変わり凄まじい形相で目尻に涙を貯めている。

そして、ギルド全体に響き渡る程の叫び声を発した。


「いたああぁぁぁ!! 痛いんですけど!! メチャクチャ痛いんですけど!!」

「あ、悪い。剣を振る特訓をしていたんだ」

「嘘よ!! 絶対に嘘よ!! 」

「うるせェ!! お前が起きないからだろ!! 」

「だ、だからって。頭を木の棒で叩くなんて酷いわ!! 」


――うん。正論だ。


そもそも、朝起こしても起きないからって頭を叩く話なんて聞いたことも無い。

マリアは大きく膨れ上がった自分のたんこぶを優しくなでている。


「それでだ、マリア。この街から旅立たないか?」

「嫌よ、私はこの弱者がいっぱいいる。この街でてっぺんに立つの!! 」

「はァ!? お前何言ってんだ?金はあんだぞ!」

「ユウタが何言ってんの? 魔王討伐が私達の討伐でしょ!? 」

「いや……まあ、そうだが」

「ていうか、私はさっさと天に帰りたいの!! 」


何言ってんだコイツ。

毎晩毎晩毎晩毎晩、酒飲んで結構異世界満喫してんじゃねーか。

――そして、マリアは腰に手を当てて自信満々の表情を浮かべ俺を見下し、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「フフフ……ユウタ。実は私、ユウタが死んだ後、一人でレッドドラゴン討伐したのよ!」


嘘だろ。

俺を蹴飛ばして、一瞬で死なせたモンスターをマリアが一人で?

信じ難い。実に信じ難い……


「ハハハ!! 嘘もたいがいにしろ、バカ女神」

「嘘じゃないですぅ~ちゃんと、レッドドラゴン討伐しましたぁ~」

「信じられないですぅ~こんな、バカ女神がレッドドラゴン討伐なんて出来る訳ないですぅ~」

「はァ!? 見なさい!! この、ライト・ウィッチ様があの憎きレッドドラゴンを討伐した証がここに書いてあるわ!! 」


そう言って、マリアは自分の懐から役職カードを取り出し俺の前に表示した。

そこには、レッドドラゴン討伐クエストclearと赤文字でしかっり書かれている。


おいおい……ってええええェ!?

間違いない、クエストクリアと書かれているし。

しっかりとマリアのレベルが上がっている。しかも、30レべだし……


「う、嘘だろ……」

「フフフ…本当よ!」

「――――」


そして、俺は信じ難い出来事を付け入れられず無言になる。


『『緊急!! 緊急!!』』


――突如、ギルド内に女性の声が響き渡る。


『『魔王軍・歩兵部隊・多数!!』』


魔王軍?こんな、始まりの街に?

嘘だろ……

俺は、まさかの事態に緊急報告の発令が脳内に余韻を残す。

前聞いた話だが、このこの始まりの街の街に来る魔王軍は極めて少ないらしい。理由は、こんな雑魚がいる街を攻撃しても何にも特が無いからだ。


なのに……どうして、この街を……


『『全員、戦闘体制ー!!』』


ギルドで、お酒を飲みまくっていた冒険者の目つきや表情が一変する。

その、空気が現在起きている状況を感じさせ、皆。今までにない、速さで装備を装着しギルドを飛び出していく――。


残ったのは、俺とマリアのみ。俺はこの時、ある事に気が付いた。

この世界の、何処に逃げても魔王からの脅威から逃れられないと言う事を――。


「ど、どうなってんだ?マリア……」

「どうもこうも、さっき言ってた通りよ! 魔王軍がこの街を襲撃しに来たの!! まずいわ。私は行く!! 村人のユウタは、ここでじっとしてて!! 」

「ちょ――」


俺の話も聞かずに、マリアは血相を変え走ってギルドを飛び出しっていった。

いつもは、ふざけた事ばかりしているマリアがあそこまで真剣になるなんて相当緊急らしい。


だが……

俺の役職は、村人。ライト・ウィッチのアイツとは、次元が違う。

俺が、前線に出たとしてもただお荷物になるだけだ。


マリアの言っていた通り、ギルドでじっとしていよう。

そして、俺は近くに転がっている。木で出来た丸椅子を起こしてゆっくりと腰を下ろした。

それと、同時にゴゴ!!っと地面が揺れ始める。

この揺れは、一定の魔力を放出した時に起きる魔力地震ウェザークエイクで主に上級職の魔法使い系の役職に多く起きる現象だ。


それで、この街に魔法使い系の上級職がマリアしかいない。つまり、この流れからすると今起きた魔力地震ウェザークエイクは、マリアが起こしたことになる。

――だが、マリアは恐らく魔力地震ウェザークエイクが起こる程の魔力を放出する事は出来ない。


そう考えると、この魔力地震ウェザークエイクは魔王軍の何者かが起こしたと考えられる。それも、かなり強い魔法使い系の役職だろう。


「クッソ!! 俺にも何か……」


そう呟きながら、5年間ろくに動かしていない俺の足を無理矢理動かして俺は、走り出した。

木の棒を左手に持ちながら――。

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