第五話 「始まりの街 Ⅴ」
((千億ベルは街にあるギルドのベル金庫へ追加しておきます。無事、転生が完了したら自由に使って下さい))
「わかりました……」
笑顔で俺に話し掛けるハトホル、その表情は先程とは打って変わり悠々としている。
千億ベルか、どう使ったらいいだろうか?
お店でも開いてみようか?
いや、めんどくさいな。
――そんな、想像を頭の中で膨らませていると、
((それでは、こちらの魔法陣の真ん中におたちください!))
「は、はい」
俺は、少しビビりながらも魔法陣の真ん中に立つ。魔法陣は淡く光り輝いていて、まるで十五夜の月を見ているかの様に感じる。
そして、高ぶる気持ちを出来る限り抑えて口を開いた。
「じゅ、準備完了です」
((はい! それでは!!))
ハトホルの綺麗で美しい声と共に、魔法陣が光りだした。よく、考えれば今回で二回目だな……人間で二回も異世界に転生した人なんておそらくいないだろう。
俺の身体が宙に浮きみるみるうちに高さが上がってゆく、そして。
――何も見えなくなった。
※※※※二回目の異世界転生※※※※
目を開くと、そこは前回転生した時、最初に見た光景であった。相変わらず、人々は活気よく生活しており、俺の脳内から『魔王』その物を忘れさせる――。
所で、マリアはどうしたのだろうか?
そんな、ことを事を考えていると俺の後ろで世間話をしている二人のおば様の声が聞こえてきた。
『そういえば、ギルド所属の冒険者が昨日 レッドドラゴンの討伐クエストで命を落としたらしいわよォ』
『まァ、可哀想……こんな低レベルの冒険者しかい無い街に高レベルのクエストを出すなって話よォー全く……』
ん?
レッドドラゴンの討伐クエスト?聞いた事がる単語が俺の耳に聞こえてくる。
いや、それ。俺でしょ! 絶対俺だから!
多分だが、あのおば様達が話している内容は俺の事で間違いないだろう。
え?でも、命を落とした……?
俺の身体は今ここにある、つまり死んだ俺の身体と今の俺は関係が無いと言う事か。
そして、俺は二人で話しているおば様の前まで行き。
「あ、あの。」
『はィ? 何ですかァ? あら、いい顔してるじゃァない?』
あれ……?
もう、五十代前半のおば様が色目で俺の事を見つめてくるんですけど。
対し、俺は額に汗を浮かべ再び口を開いた。
「あ、ありがとうございます。で、その……今話していた。レッドドラゴン討伐クエストで命を落とした冒険者は今どこに?」
『あァ、それならギルドで冒険者全員集まってお葬式をしてるわァ』
「わ、わかりました。ありがとうございました。」
『『いえいェー』』
笑顔で俺に振る舞ってくれるおば様。
如何やら、この世界のおば様は永遠の二十歳らしい。そんな事を思いながらも俺は、ギルドへと足を進めた。
ギルドの前に到着した俺だが、脳裏に不安を覚えた。いつもは、騒がしくギルドの前に居ても声が聞こえてくるのに今日はそんな声は、一つせずシーンとしている。
そして、ユウタがゆっくりギルドの扉を開くと中では、ギルド所属の冒険者含めマリアが俺の人形に手を合わせている。まるで、お葬式の様に。
「え……?」
疑問で頭がいっぱいになり、つい声が漏れる。その声を聞いた、ある一人の冒険者が俺を見た後。
「ん――ッ!? んんん!? えええええぇぇ!?」
その、冒険者が発した叫び声を聞いて他の冒険者も俺を見る。
そして、叫ぶ。
なんだろう……
幽霊になった気分だ。
俺は、微笑を浮かべ。
突如、登場した俺に気付くことなく。いつにもなく真剣に手を合わせているマリアの前へと向かう。
マリアの前に立っている俺だが、ここで重大な事を気付いてしまった。
まず、普通に考えてマリアがこんな真剣になって手を合わせる訳がない。
それも俺に対してなんて。
コイツ……
心の底からぶん殴んなぐってやりたい、だって、このバカ女神、寝てやがる。
「おい。」
「……」
バカ女神からの反応は無い。
反応するどころか、よだれを垂らしながら熟睡状態。この、女神は本当にぶん殴んないと分からないらしい。
そして、俺は背中に下げている『木の棒』を抜き出しマリアの頭上に合わせると……
思いっきりぶった切った。
もちろん、『木の棒』なので切れる事は無い。
「いったあああァァ!! 」
マリアの高い叫び声がギルド全体に響き渡る。
めっちゃ、スッキリしたぞ。……また今度、やろう。
「だ、だれ。女神の頭を叩いた奴は! 出てきなさい! 」
――そして、文句を言いながら自分の頭を叩いた犯人を詮索するバカ。辺りを、キョロキョロしているが一向に俺を気付く気配が無い。そんな、反応を見せたマリアに対しユウタは作り笑いでマリアの輝く碧眼をまじまじと見つめる。
「マリアさーん、聞こえるー?」
「はへ……」
困惑の表情を浮かべ、マリアは額に汗を浮かべながら固まる。ようやく、自分が今現在置かれている立場に気付いた様だ。
「あ、あれ?ユウタ?え……ユウタは死んだ筈じゃ……」
「うん!死んだね」
「で、何で目の前にユウタが……?」
「さァ?」
「ははは……はァ!? み、皆!幽霊が出たわ! 幽霊よ!!」
何を思い違えたのか、マリアは俺を幽霊と勘違いし皆に呼び掛け始めた。それと対象的に、ギルドの冒険者はおちついている。どうやら俺が現実的に存在していると悟ったのだろう。つまり、このバカ女神はただ一人ギルド内でわめいている事になる。
なんて、可哀想な子だろう……
心が痛くなってくる。――こんな可哀想な子を誰も助けない、それが現実だ。
「お前……バカか!?」
「いやああァァ! 幽霊がしゃべったあああァァ!!」
いや……なんか、もう……いいです。
俺は、目尻から輝く透明な涙を一粒零した。
その涙は、バカすぎて可哀想な少女への悲しみと、その可哀想な少女に何にも言ってやれない俺の無力感が入り混じっていた。
「お前……」
「え……?」
「バカか……?」
「は?」
俺の問いかけに、マリアは口をポカンと開けたまま、髪一本揺らさず固まる。そして、俺はゆっくりとそして冷静に口を開いた。
「今に至るまでの経歴をゆっくり話すから聞けよ?」
「わ、わかったわ……」
この後、ハトホルに出会った事やら、千億ベルを受け取った事、二回目の異世界転生をした事、なんのチート能力も貰えなかった事。
こうして、俺の第二回目となる異世界生活は始まった。
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