第四話 「始まりの街 Ⅳ」


――如何やら、俺は死んだらしい。


あの時、確か俺はマリアを抱えたまま洞窟を走り回った後、近くにあった岩陰にマリアを隠し……て、その後の事は覚えてません。

多分その後、俺は死んだんだと思う。


第二の人生が二日で終了って……


ありえるかああああああああああああァァァァァァ!!


ユウタの叫びが何も無い未知の空間に響き渡る――。


※※※※※※


「ここは……?」


真っ暗で何も見えない世界――。


依然、来た事のある場所だ。

そう、たしか『天使のエレベーター』だった筈、

第二回目の訪れである。


((山本 ユウタさん……))


――突如、マリアと似たような美しい声が聞こえる。


((貴方は、先程……レッドドラゴンに蹴飛ばされ死にました。))


――再び、声が聞こえて来る。

その声が聞こえる方を見ると、そこにはマリアと同じ年であろう。

銀髪で真っ白な肌、そして葵の瞳、

俺は、我慢できずに心の中で小さく呟いた。


クソかわええ……


((ユウタさん、聞こえていますよ?))

「あ……すいません……」


恥ずかしいいいい……


俺は、両手で顔を隠すが、それに対し可愛い子は無表情のまま俺を見つめている。

どうやら、俺の心の声が聞こえるらしい、


((私の名は、ハトホル。エジプトの天の女神です))

「ほー、エジプト……」


中学生時代から、引きこもっているおれか俺からしたら何処にある国かさえ分からないのだが……

まあ、こんなに美しい女神がいる国だ素晴らしい国なんだろう。


((コホン! あ、あの……ユウタさん。 この度は、私達の同僚マリアがご迷惑をお掛けしてすいませんでした。))


そう申し訳なさそうに俺に向かって頭を下げるハトホル

そして、俺はとんでもない!っと口に出したがハトホルは、勢いよく首を振って、


((いえいえ!私の方が、とんでもないです、マリアの手違いが無ければユウタさんは現実世界でヒキニー……ッ、高校生活を続けていられましたので……))


あれ……


俺の聞き間違いだろうけど、あの子いまヒキニートって言おうとしなかった?

そんな、事を思いながらも俺は冷静に紳士を演じる。


「いえいえ、別に俺にとって苦労ではありませんよ……」


……嘘だ。

滅茶苦茶、迷惑だよ。アイツ……

勝手に、レッドドラゴンのクエスト受けるし

現に、アイツがレッドドラゴンのクエストを受け無ければ俺は死ぬこともなかっただろう。


((そうですか……ですがお礼をさせて下さい。どうです? もう一度、あの世界で人生を再スタートしてみませんか?))


そうして、笑顔で俺に問い掛けるハトホル、その表情は気が緩むと惚れてしまいそうな程美しい。


人生再スタートか……俺の答えはもう決まっている。

……もちろん!!


「いえ……結構です」

((はい!! それでは、こちらへ……? 今、なんと?))


驚愕した表情で、ハトホルは俺を見ている。

それに対し俺は、真顔のまま


「え……?だから、結構です」

((え……))


困惑している様子を見せるハトホル、如何やら俺の答えが想像していたのと違った様だ。


((ど、どうして……ですか?))

「そんなの、当たり前じゃないですか。転生して二日で俺、死んだんですよ? そんな、世界にもう一度行きたいとなんて思いますか?」

((それは……))


俺は、間違っちゃいない。

当たり前だ、2日で死んだ世界にもう一度転生してやり直しませんか?だあ!?

馬鹿げた話にも程がある。


俺は、馬鹿だが自分の身の安全位は守れる位の脳はある筈だ。

そして、脳内の安全センサーが俺の身体の危険をビンビン感じ取っている。


二度と、あんな世界に行くなと……


((それなら、千億ベリーを差し上げます。日本円に換算すると、約千億円です。どうです?一生遊んで暮らせますよ?))

「うーん……」

((いいですよね!?))


やや強引に、異世界再転生を進めてくるハトホル……

なんか、目が商売人のような目になっている。


確かに、千億ベリーあれば一生遊んで暮らせる……悪くない話だな。

だがな、俺はちゃんと冒険もしたいんだ! これだけは譲れない。


「あ、あの……チート能力ってのは……?」

((あ、それは絶対無理です))


俺の提案に、女神様は呼吸をする間も無く、即答。


なんで!?

どうして、金は良くてチートはダメなんだよ!!


「どうして――ッ!? 」

((それは、あの世界にチート能力を持てる人間の人数が一人と決まっているんです))

「はァ!? えーとー、つまり俺がどう頑張ってもチート能力は獲得不可という事でしょうか?」

((まあ、そうなりますね。あ、でも現在チート能力を持っている人間が死んだらまたチート能力を獲得する事が可能ですよ?))

「じゃ、じゃあそのチート能力の人間は今……」

((詳しくは、言えませんが死ぬ気配はありませんね))

「そうですか……」


取り敢えず、俺の村人続行が確定した。

俺が、肩を落として落ち込んでいるのを見て、ハトホルは口を開く、


((だ、大丈夫ですよ!異世界最強とは言いませんがレベル上げをしたらそこそこまでは強くなりますから!))


そこそこ……ね。

俺は、異世界最強の勇者になってド○クエのように歴史に名を残したい、なんて思っていたが……如何やら、無理だ。


「あ、あの。レベルって最高何レべですか?」

((はい、えーとーたしか999レべルです!))


999レベル……俺のレベル、1!!

どうしろと?1レべの俺にどうしろと!?


結論、異世界最強――無可能!!


「そうですか……で、俺の前に転生した勇者のレベルは?」


俺が興味半分で聞くと、ハトホルは少し戸惑っているかの様に見えたが、ゆっくり口を開いた。


((100000レベルです……))


おい……

桁がちがうぞ、桁が


――その発言に対して、俺は戸惑いと悲しみを隠せなかった。

だって、100000だよ?

てか、勇者が十万レベルなら魔王さんどんだけ強いんですか?

化け物ですか?


「ああ。はい、俺は一生その金で暮らします……はははは……」

((は、はあ……))


明らかに、作り笑いをしている俺を見たハトホルは苦笑いをしながら目を逸らす。

そして、俺は再度異世界に転生する事にした。





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