第三話 「始まりの街 Ⅲ」


気持ち悪い、吐きそう……


――この二つの、感覚が俺を襲う。


昨日、アウロラの適正役職が最高ランク役職の"ライト・ウィッチ"だと言う事が分かり、色々ショックを受けた俺は酒を飲んで飲んで飲みまくった。


そのせいか、吐き気と頭痛が酷い……


「おうぇ……」

「ちょ、ちょっとユウタ!吐くなら向こうで吐いて!!」


そう言って、自分から俺を遠ざけるマリア

俺は足をおり膝をついていると言うのに、こいつは未だゴツイオッサンとテーブルに集り、ごくごく酒を飲んでいる。


酒強すぎだろ……一昨日と昨日でこいつは滅茶苦茶、お酒を飲んでいる筈なのに、


……それと

この世界はお酒の年齢制限がなく、まだ18歳の俺でも普通にお酒は飲める。


――そんな、事を思いながら俺はある事を決心し再びもたれていた椅子から立ち上がる。


「おい!マリア!!クエスト受けるぞ!!」

「ええ~」


返ってきたのは、否定的な反応であった。

それに対し、俺は眉間にしわを寄せる。

正直言って、俺もクエストなんか受けたくない。ただ、ゴロゴロした生活を送りたいのだが、昨日俺とマリアが飲んだ酒の料金を払わなければならないのだ。


――この、ギルドではギルド内で食べた品の値段をクリアしたクエストの報酬から払うことが出来るらしい。


つまり、食ったんなら働け!って事だ。


「ええ~じゃねぇ! クエストクリアして昨日飲んだ酒の代金払うんだよ!言っておくが、俺は自分の分しか払わないからな!!」

「いいわ!なら、私もユウタの分払わないからね!!」


俺の脅しに対し、マリアも脅しで返してくる。


あ……俺、村人だった。


そして、今更現実を突きつけられる。

だが、男に二言は無い。自分の分は自分できっちり返そう。


「ああ、いいぞ!でも、なぁ!お前、役職は魔法使いだ。けどなァ!魔法の詠唱しってんのか?」

「ええ、もちろん!!」


ふ……馬鹿め魔法の詠唱は最低でも20文字はある。そんな、長い詠唱をこの馬鹿が覚えられる訳がない、


「はァ?じゃ、あとで、やってみろ」

「いいわ!見てなさい!!」


――そんなこんなで、俺とマリアはクエスト受付まで向かい。


クエストを選んでいた。

クエストは、この街に住んでいる町民が出した物もあれば、街が出した物、国が出した物など色々ある。

特に、国が出しているクエストは難易度が高い、だがその分報酬は多くなるらしい。


「う~ん……どれにするか……」

「そうね、これなんかどうかしら?」


沢山あるクエストの中からマリアが選んだのは、『レッドドラゴンの討伐クエスト』


明らかに、名前がヤバい……


「お、おい……そんなの無理に決まってるだろ」


しかも、国が出してるクエストだし、


「いやいや!私を誰だと思ってるの!! 女神かつライト・ウィッチよ!!」

「いやいやいやいやいやいや……なに、言っての?しかも、よく見ろこのクエスト討伐最低人数4人って書いてるだろ!! そもそも、二人でなんて無理だ!!」


俺が、完璧な正論を言うと、

それに対し、マリアは頬を膨らませ――勝手にクエストを……


「受けやがったああァァァ!!」

「ふふーん、もう反論は出来ないわ!ユウタ!! 」


――こいつ、本物のバカだ。

こんなクエスト、サルでも受けないぞ……

マリアがやった行動を未だに信じられず固まる俺に対し、マリアは両手を腰に当て勝ち誇った顔で俺を見下している。


「お前バカか!? 本物のバカなのか!?」

「ふん!そんな、二次元オタクにバカなんて言われても痛くも痒くもないわ!」

「うるせえ!バカ女神!!」

「私、バカじゃないですぅ~」


俺の言葉に対しマリアは再び否定の言葉を返してきた。

如何やら、自分がバカなのを自覚していないらしい。


そんなこんなで、俺とマリアの低レベルの会話が続いたが……結局、クエストは受ける事にした。


だって、キャンセルの金額が報酬の倍するんだもん。



♢ 討伐クエスト 《レッドドラゴン討伐》

制限時間、10日

報酬1000000ベル



街の近くにある、モンスター発生場所に到着した俺とマリアは討伐対象のレッドドラゴンを探す事にした。

もちろん、一人での行動は危険な為二人での行動だ。


この辺りは、ゴツゴツした岩で大地が覆われており非常に歩きにくい。

所々、草食動物の白骨化した骨などが散らばっており、如何にもドラゴンがすんでいる感じがする。


「ねえねえ!ユウタ!もし、レッドドラゴンが姿を現したらこの私の後ろに隠れなさい!! 私が守ってあげるわ!!」


私の後ろで俺が戦闘を見ていろ?あいつは何、言ってんだ……?

そんなの、当たり前じゃん。もともと、その気だったんだけど、


「ああ、そうさせて貰うよ」

「まあまあ!ユウタったら私がいなかったらなんにも出来ないのね!!」


こいつ……


まあ、確かにこのバカ女神がいなかったらこんなレッドドラゴンの討伐クエストなんて受ける事はなかったしな。

どこかの、バカ女神が勝手にクエスト受けたせいで!


「うるせえ!! お前が受けたんだろこのクエスト!! 俺は、ハチミツ採取的な物がよかったんだ!!」

「ぶッ!! ユウタ、ハチミツ――ッ!? そんなんで、稼げると思ってんの!?」

「まあ確かにそうだが、なぜ!?なぜ!?レッドドラゴン!?」

「一番報酬が高いからにきまってるじゃない」

「お前なぁ!! 俺達異世界きてまだ2日だぞ!? バカなのか!?」

「フン! 日数なんて関係ないわ! この世界は、実力よ!!」


いや、その実力を俺らは持っていないろ……


そうして、ディスカッションしながら山道を歩くこと約2時間程、

狭い岩だらけの道は開けて大きなドームの様な洞窟が現れた。


明らかに、ドラゴンの住み家だろ……


「おい、マリア一旦ギルドに帰ろう。そして、土下座だ……」

「何を言ってるの!ユウタ、レッドドラゴンはすぐそこよ!?帰るなんて勿体ないじゃない!」

「すぐそこだから言ってんだよ!!」


そんな、俺の言葉も聞かずにマリアは洞窟へと足を進めた。


「おいおい!!」

「シー! 静かにして、何か聞こえるわ!」


その言葉に、俺も耳を傾けて聞こえてくる、何かの音を聞く。

だが、特に何も聞こえない聞こえるのは近くにある滝の音だけ、それに対しマリアは何か聞こえているようで次々と足を進めていく――。


洞窟の中に入って数メートル進んだ所で、マリアは足を止めた。

洞窟内は、嵐の前の静けさの様にシーンとしている。


「いるわ……」


マリアのその言葉と同時に、目の前が炎に包まれ熱風が俺の顔に強く吹き付ける。

そして、目を開けて目の前を見ると10メートルはあるであろうドラゴンが紅の瞳を輝かせながら俺らを見下していた。


「おい……マリア、どうするんだ?」

「――――」


マリアから、反応が無い。まさか、と思いマリアの立っていた方に目を向けると、気絶している。


あ……。


――どうも、お風呂で足を滑らせしんだ山本 ユウタです。


如何やら、俺は絶対絶命の様です。

誰か、助けてください。

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