第二話 「始まりの街 Ⅱ」


――次の日


となった俺は、何もする事なく街を散歩していた。

朝の街は活気に溢れ皆、元気よく過ごしている。この世界が、魔王の手に落ちようとしている事も忘れたかの様に……


「はあぁー」


俺は、一人深い溜息をこぼす。


「人生甘くないよなあぁ」


何か期待して、ギルドに行き役職を選んだものの俺の適正役職は『村人』ただ一つだった。受付の女性に聞いた所、大体の人は2つや3つは選べる役職があるらしい。

だけど俺は『村人』だけ。逆に凄いと思う。


「どうするか……」


別に村人だから、クエストを受けられない訳では無いらしいのでギルドで貰った。

『木の棒』で、クエストにでも行こうか。

この街の周りには、モンスター発生場所が多数あるらしく、そこでモンスターを討伐し、モンスターの体内に存在する『魔石』を持ち帰りギルドのカウンターで報告をすると報酬を貰えるらしい。その、報酬でギルド所属の冒険者や魔法使いは生計を立てているんだとか


そして――

さすが、始まりの街というべきだろうかとにかく、町民が優しい。

昨日の夜もお腹を空かせながら、ダラダラと歩いていたら、優しいおばあ様が、フランスパンに似た食べ物をくれたのだ。


味は、どちらかと言うとメロンパンに近くて、ほのかに甘い、フランスパンの様に固くない。どちらかと言うと、モチモチである。


「ユウター!!」


そんな、至福の時間もつかの間。

どこからか、聞いた事のある声が聞こえてきた。


その声がする方へ目を向けると、大体予想していた通りマリアである。

金髪碧眼の美少女でとても美しい……外見はだが。


「はぁはぁ、ユウタ!昨日、いきなりギルドからいなくなるなんて酷いじゃない!」


息を切らしながら、俺に話しかけてくる。

、如何やら人違いをしているらしい。


「あの、どちら様ですか?」

「え……?何言ってのユウタ!私よ?マリアよ?」

「はあ、聞いた事もありませんねェ!? ギルドに入って早々知らない人と酒を飲んで酔っぱらっているゴミ女神なんてなぁ!!」

「あ、あれ……ユウタ怒ってる?」


ふざけた態度で話を返すマリアを見て俺は苛立ちを覚えた。

どうしよう、メラが使えたらとっくに焼いている。まだ酔いが向けてない様だ。それに、酒臭い。


「いっやー!全然、怒ってないよー?」

「それじゃあ、なんで戦闘体制で私に木の棒を向けているの――っ!?」


そう俺は今、木の棒をマリアへと向けている。それに対し、マリアは額に汗を浮かべながら必死に許しを請う。


もう、女神としての自覚は無い様だ。


「いや、嘘よねェ!? 一緒に転生した仲間じゃない!!」

「お前なんぞ、仲間なんて思った事一度足りともないわあぁぁ!!」

「酷い!酷いわ!ユウタ!!」


マリアは涙目で、俺の身体に抱きついて離れない。


「うわ !倒れるから、離れろ!」

「やだぁぁー!いやよぉぉ!一人は。いやぁぁ!」

「痛い痛い!」


マリアが、先程よりも強く抱いて来るせいか足が痛い。対して、マリアは泣きながらずっと俺の左足につかまっている。


「いやよぉぉ!」

「ああぁ!わかったから、離れろ!」


俺がそう言うとマリアは、何事も無かったかの様に離れる。

――そして、すかした顔で首を傾げている。


こいつ……


どうやら、抱きついたら許して貰えると学習したらしい。


まあ、そうなんだけど……


「それで、どこに行こうとしてたの?」

「ん?ギルドだよ」

「え?どうして?クエストでも儲けるの?」

「ああ……村人でも儲けられるらしいからな」

「え……?村人――っ!?」


そう言いながら、目を見開いて驚愕した表情を見せるマリア

ああ……そう言えば、コイツ酒飲んでたから知らないんだっけ?


「そうだよ、俺の役職は村――」

「ぶっ――ッ!!ははははは!!村人!?最低ランクの役職じゃない!!」

「うるせえええぇえ!!」


俺の声をかき消す様に突如、笑いだすゴミ女神。


コイツ……


「お前ふざけんなよ――ッ!? お前が、色々役職決められるわよ?なんて、言うから期待してギルドに行ったのに、俺の適正役職が村人だけだったんだよ!! ざっけんなああぁぁ!! 」

「ぶはははっはは!! ヤバい!ヤバいわ!ユウタ!! 適正役職が、一つだけなんてそれも村人!! 凄い確率よ! 隕石に当たる確率よりも低いかも!! 」

「あああぁぁ!うるせえぇ!さっさと、行くぞ!!」


そう言って、俺はギルドに向かって歩き出した。

マリアは、未だお腹を抱えて笑っている。


数分歩いた所で、俺とマリアはギルドに到着した。相変わらず、お祭り騒ぎしているようで外にいてもギルド内の騒がしさ耳を通して伝わって来る。


「所で、お前の役職なんだ?」

「そんなの、女神に決まってるじゃない!バカなの?」


もう、抵抗する気にもなれない。


「え?でも、適正役職の認証受けてないんだろ?」

「まあ、そうね……」

「なら、受けろよ。じゃなきゃ、クエスト受けられないぞ」


言い忘れていたが、ギルドでクエストを受けるにはギルド公認の適正役職書役職カードが必要らしく、無い場合はクエストを受ける事が出来ないのだ。

――それで、現在役職を"女神"と言い張っているマリアはクエストを受ける事が出来無いので、適正役職書役職カードを発行しなければならない。


「そうだったの……適正役職書役職カードが無いとクエストを受けられないのね……初耳だわ」

「おい、この世界の女神お前じゃねえのかよ……そんな事知らないでどうする」

「何言っているのかしら?こんな、ギルドなんてこの女神マリア様が知る必要もないわ!!」


そんな、マリアの言葉を聞きもせず俺はギルドの扉をゆっくりと開けた。相変わらず、誰も俺を気付く気配は無い。

まあ、現実世界でもよくあったから別にかゆくもなんともないな。


本当に……そう、本当に……。


そして、昨日の様にギルドの隅を自然を装い歩いてゆく。


「ちょっ! ちょっと待って! ユウタ!」


そう言いながら、マリアは小走りで俺の後を追いかけて来る。


「ほら、さっさと適正役職の検査をしろ」

「わかったわ!」


元気のよい返事を俺に返して、適正役職の検査を受けるマリア


フ……どうせ、最低ランク役職の村人か街民だろ……なんて、思っていた矢先


「見てみて、ユウタ!!」


そう言いながら、俺に見せてきたのは適正役職書役職カード

そこに書かれていたのは、最高ランク役職の


『ライト・ウィッチ』


――俺は、そこに書かれていた事を信じる事は出来なかった。だって、ついさっきまで自分よりも下だと思ってた人が自分の役職よりも遥かに上の最高ランク役職"ライト・ウィッチ"だなんて、


「うそだああああァァァ!!」


俺の叫び声が、騒がしいギルドに響き余計うるさくなった。この日、クエストを受けるのは中止してギルドで他の奴らとお酒を滅茶苦茶飲みました。


……もう、この日の事は覚えていません。



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