ⅩⅩⅧ
由梨の彼氏が犯人という事になって以来トイレの悪臭はピタリと止んだ。そして何故か冷蔵庫のお茶も跡形もなく消えた。二リットルのペットボトルを箱買いしたのであれば六本あるはず、見掛けたのはせいぜい二本。職場に持っていったとして、いくら安売りしていたとは言えそこまで気前良くするか?まして好みだってあるのだから。
そう言えば仮に箱買いしたとしてもわざわざ二階に持って上がるだろうか?十二キログラムはかなり重い、箱に名前を書いてキッチンの端にでも置いておけば済むのではないか?
今日は私が食事当番、このところ由梨はダイニングに出てこないのでミカがいる時は三人で、香津と二人になる時は半々くらいで部屋に篭る。今日はどうしようか?
「今日はどうする?」
「急ぎの原稿もありませんのでここで頂こうと思ってます」
今日は一緒に食べてもいいか……若しくは香津が部屋で食べるかだ。
「ミカさん参観日の準備で遅くなるのよね?」
「そう聞いてます。にしても今の小学校参観日多いですね」
「うん、音楽教室の生徒さんの親御さんもそんな事言ってたわ。多い所じゃ月イチであるらしいよ」
うへぇ~面倒臭い、週休二日制の意味はあるのか?私たちは二人分の食器を並べて夕飯の準備をする。今日は青椒肉絲、ピーマンと素の安売りがあったので昼に買っておいたのだ。
「麻帆ってお肉食べるの珍しいよね?」
「消化器系があまり丈夫ではないんです、続くと胃もたれして……」
「三十なりたてで婆さんみたいな事言わないでよ」
香津はそう言って笑う。このところ恋とやらが順調で機嫌がよろしい様だ、それが誰かの人生を踏みにじった上で成立しているなんて考えもどうやら無いらしい。“恋は盲目”とはよく言ったもので、普段なら気遣える事、他人の事だと冷静に判断出来る事が疎かになってくる……自分良ければすべて良し、こいつはなかなか恐ろしい。
「ねぇ麻帆」
何その猫なで声?私は正直ぞっとした。
「仰木さんってとっても素敵な方なのよ」
へぇ……アレを素敵と言える感覚はどう考えても分からない。
「私ああいう方とお付き合いしたいなぁ。話も面白いし仕事も出来そうだし、何より奥様思いなのよ。そりゃモテるわよね」
何カマトトぶった事吐かしてんだお前?ってかもう現在進行形だろうが。仰木大和にしろ聞いた話だと不倫も一度や二度ではないようだし……あばたもえくぼとはこの事か、恐ろしや恐ろしや。
「麻帆だって彼ならアリだと思わない?」
「いえナシです」
あんなハリボテどこが良いんだ?
「え~そうなのぉ?」
その猫なで声何とかしてくれ気持ち悪い。
「そもそも既婚じゃないですか」
この話題続けたくない、私の口調は若干キツくなってしまう。
「独身ならって場合の話よ、麻帆って不倫は嫌なタイプ?」
「そうですね、後々面倒ですから」
「へぇ、ガキな思考してんだね。大人なら恋愛の選択って自由だと思うけど」
それなら私は子供でいい、自由と放埓を一緒にすんなユル股横取り女めが。
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