ⅩⅩⅦ
……何ですと?つまり由梨の彼氏はあのトイレ災害の起こる可能性が低いと言うかほぼ無いってやつなのか?
「えっ?でも食べ物が違えば臭いも……」
ミカは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「だとしてもおかしいわ、新垣仁志の時には無かった現象なんだから」
そうだ、あの男の時はこんな事一度も無かった。今までなぜ忘れていたのだろうか?
「そうなの!きっと新垣君も座る派なんだよ!」
それが本当であれば何一つ解決していないではないか。
「って事はこれからも続くの?」
ミカは嫌そうに言う。
「しばらくは大丈夫だと思う。吉原さんだって当面彼氏さんを連れてきたりは……」
「しないしない、ここに入れたのだってあの時が初めてだったんだよ。それに香津さんの事苦手だから送ってくれる以外寄り付かないし」
それで最近ギクシャクしてたのか……男の態度で友達変えるのもどうかと思うがそれは今気にする事ではない。それともう一つ、由梨がここで本当の事を言っているとも限らないので気を緩めてはいけない。
「それ夕飯時に言っても良かったんじゃないの?」
ミカにとっては今ここでカミングアウトするのが疑問のようだ。私は由梨がどんな答えを返すのかじっと見つめてしまう。
「それしちゃうと二人に迷惑掛かるじゃない、ごはんも美味しくなくなるし」
つまりは由梨なりの心遣いという事か?……全く釈然としないが、本人がそう言うのならわざわざこちらから矛を向ける必要は無い。それならむしろ今日に限らず初めから気遣いしてほしいものだ。
「それなら私たちは居なかった方が話し合いが出来て良かったんじゃないでしょうか?」
取り敢えず軽く牽制、さあどう出る?
「そ、そういう事じゃないよ麻帆ちゃん」
そう言いつつも目が泳いでる由梨。はは~ん、そういう事ですか……香津の言っていた事はあながち嘘でもないようだ。
「ほらそういう事言わないの」
ミカさん、あなた学校の先生なんですからもう少し洞察力を養われた方が宜しくてよ。私はミカにそう視線で訴えかけてみたが、お人好しで少々騙されやすい彼女にその思いは全く届いていなかった。
翌朝、由梨はダイニングに出てこず三人で朝食を摂る。昨夜遅く帰ってきた香津は眠そうにアクビをしながらの朝食だ。
「そう言えばボードの事なんだけど、時間書くのもう止めない?トイレの犯人分かった訳だしさ」
案の定香津がそう言ってきた。コレきっかけに由梨の排除に乗り出す気か?
「いえ、むしろ続けない?戸締まりとか夕飯の準備とかの基準になってちょうど良いのよ。口頭だとどうしても忘れたりなんて事もあるじゃない」
ミカの反論に香津の表情が少し歪む。この二人どうも反りが合わない……と言うよりもミカは昨夜の一件で由梨の肩を持っているのかも知れないが、私もそれをやめる予定は無い。
「私もその必要は無いと思います。ここだけの話提案されたご本人が一番よくお忘れじゃないですか」
ここは敢えて由梨の抜けっぷりを強調してやる。
「確かにそうだわ、人には書けとか言いながらね」
食いついた。しかしここで慌ててはいけない。
「ですから敢えて続けるんです。多少の抑止力にはなるんじゃないでしょうか?さすがにご自身の提案ですから、抜け目はあっても不正はなさらないでしょう」
「分かんないよあの女腹黒だから」
ホントお二人さん元とは言えご友人様同士だからやる事よく似てらっしゃいますわ。
「それが今回みたいに表沙汰になったらさすがにどうでしょうか?出て行くくらい大した事じゃないですが、わざわざご自身から信用を失うリスクまでは取らないと思いますよ」
「……それもそうかもね。だったらこのまま続けましょ、私ああいうの苦痛じゃないから」
香津は獲物を見つけた蛇のように目を光らせてニヤリと笑った。この女の事だからわざと今以上に上手に活用して由梨の揚げ足を取る気かも知れない。まぁその辺りの事はご自由にしてもらって構わない、実際のところ何一つ解決していないのは間違いない様なのでここで決め事を減らす言われはない。
「では変更無しという事で宜しくお願いします」
「うん、分かった」
「了解」
取り敢えず香津に納得してもらえて私はホッと胸を撫で下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます