ⅩⅩⅤ

 私は念の為トイレに入ってみた……らミカの言った通り臭いが残っていた。何故?ちゃんと拭き掃除もしたのに……そう思ったが昨日の掃除当番は私なので仕方なくやり直す事にする。

 「おはよ~……麻帆ちゃん何やってんの?」

 「トイレ掃除です、昨日きちんと出来ていなかったみたいで……」

 私はせっせとトイレの床を拭き、カバーを取り替えて便器も磨く。

 「そんなの疑ってないよぉ、香津さん・・が男連れ込んでるに決まってるんだから」

 私も正直そう思っていた。しかし昨日香津が忘れ物を取りに戻った滞在時間は十分も無い。

 「証拠がありません。それに私が外出したのは昼前の買い出しで近所のスーパーに行っただけですし」

 ついでに言うと私が昨日キチンと掃除をしたという証拠も無いのだ。損な役回りではあるが要らぬトラブルは避けておくのが一番いい。この時になって前日のトイレの流水音を思い出したのだが、今更由梨にそれを伝える気は無い。

 「もう終わりますので」

 「うん、今日は私が食事当番だから一緒に朝ごはん食べよう」

 う~ん、さっさと寝たいところだが空腹には勝てない、その誘いに乗ることにしたらミカも部屋から出てきて、香津を除く三人で朝食を摂ったのだった。


 また別の日、新企画の打ち合わせで出版社に来ていた私は檜山から何とも言えない……強いて言えば『遂にこの日が』的な話を聞かされた。

 「先週伊織と買い物に出てたんだけどさ……」

 「そうですか、七年経ってもラブラブですなぁ~」

 私は土産菓子のお裾分けを頂いている。これ美味いな、通販あるのだろうか?

 「まだ話の途中だ、そこで女と歩いてる大和さんを見掛けたんだよ」

 あぁそうですか、全く興味の沸かない話である。

 「へぇ~、……このお菓子はどなたが?」

 「磯山いそやまさんです。金沢土産でなかなか美味いでしょ?」

 私は顔見知り以上である女性編集員三浦みうらさんに菓子の事を訊ねてみた。金沢か……生麩、落雁、水飴……小京都なだけあって和菓子が美味しいイメージがある。

 「おいコラ人の話を聞け、ひょっとしてお前の知り合いなんじゃねぇかと思ってさ」

 「ん?何がです?」

 「一緒に歩いてた女がだよ」

 「奥様なんじゃないんですかぁ?」

 う~ん、仰木大和が誰を連れて歩こうが興味がありません。

 「だから最後まで話を聞け、嫁さんの顔はここにいる殆どの奴らが知ってるよ。何せ社員の八割に招待状、全員にご丁寧に写真付きメッセージカードを送りつけてんだからな」

 うわぁ~絶対要らねぇわそれ。迷惑だけど棄てにくい、まるで貧乏神みたいだ。それならせめて『ボ○○ー』とでも言ってくれるユーモアくらいはほしい。

 「キモいっすねそれ」

 「大事なのはそこじゃねぇ、今回連れてた女伊織が『見た事ある』って言ってんだよ。□□楽器店の従業員だって、ルームメイトに居なかったか?楽器店勤務の奴」

 あぁやはりそうだったか……正直意外でも何でもない。

 「あぁいますね、やっぱりそうなってましたか」

 「何だ知ってたのか」

 「いいえ、知りませんが驚きもしないですね。あまりに想定内過ぎて」

 それより伊織が□□楽器店に出入りしてる事の方が驚きだ、一体どんな接点が……?そっちの方が気になる。

 「あの方懲りないですよね。奥様が病床の時にも不倫なさってたでしょ?」

 三浦さんがその話題に興味を示す。そんなに有名なのか?

 「で、どんな方なんです?今度の不倫相手って」

 三浦さん興味を示し過ぎだ……気持ちは分かるが。

 「あ~……背が高くて髪の長い女だった。パンツスタイルで仕事はまぁ出来そうだなって感じ、あとは……」

 檜山は私を気にしながらも女の特徴を答えている。うん、完全にアイツだわ。

 「顔はまぁまぁ、強いて言えば犬顔だな。んで中途半端にシャギーかけた前髪とサイドをちょろっと垂らしててさ」

 はいはいもうお腹いっぱいですよ檜山さん。

 「何なんです?『○子』ですか?」

 「あぁイメージはそう遠くないな。その毛が顔に貼り付いててさ、何せ不潔そうな女だった」

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