ⅩⅩⅣ
それから由梨の提案は採用され、出掛ける時間と帰宅する時間をホワイトボードに書くようになった。結局由梨は香津が居ない時間帯を見計らってミカに話した様だ。相変わらずズルい女……そんな事を思いながら玄関の掃除をしていると仕事中のはずの香津が帰宅してきた。
「ちょっとだけゴメン!忘れ物した!」
香津は靴を脱ぎ捨てて二階へ駆け上がる。なら先に風呂掃除でも……と思ったら物凄い音と共に香津に大声で呼ばれた。
『麻帆ーっ!!!ちょっとだけ手伝ってーっ!!!』
え~何~?面倒臭~……とは言わないが仕方なく二階に上がると、何故か道を塞ぐようにドレッサーが置かれていた。何この状況?ってか誰の?
「何でこんな所にドレッサー……それより怪我は?」
「多分打撲だけだから大丈夫。由梨の奴こんな所にドレッサーなんか置くんじゃねぇよ!」
香津は文句を垂れながら散乱した化粧品を元に戻す。
「香津さん先にお忘れ物を。テキトーにしか出来ませんが私が拾っておきます」
「ありがとう、由梨には私から話すよ」
香津は忘れ物を取りに部屋に入る。私は由梨の化粧品を拾ってドレッサーの上に置いていく。一体どういうつもりでこんな所にドレッサーを置いたのか……?
それから少しして香津がクリアファイルを持って部屋から出てくると、まだ転がっている化粧品を拾うのを手伝ってくれた。
「お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫、渋滞も考慮して長めに外出許可申請してきたから……あーそれにしても由梨の奴どういうつもりでこんな所にドレッサーなんか置きやがったんだぁ!?」
確かにこんな置き方は危ないだろう、私からも言った方がいいのかも知れない。
「私からも言った方が……」
「止めた方が良い、あいつ麻帆のせいにしてくるかも知れないから」
「……」
「私からちゃんと話す、こんな置き方してるのもあるけど散らばしたのは私だから」
「……では黙っておきます。今日は夜勤ですので多分顔を合わせないと思います」
そう言っている間に香津が立ち上がる。何だかんだで時間が無いのだろう。
「一旦トイレに入ってから行くわ、あとお願いしてもいい?」
香津はそう言い残して下に降りていった。その直後にトイレの流水音が微かに聞こえてきたのは覚えているのだが、私は化粧品を拾うのに夢中になっていてその事に気を留める事が出来なかった。
それから夜勤アルバイトをこなして帰宅した私をミカが出迎えてくれた。今日は日曜日だと言うのに随分と早起きだ。
「ただいま、随分と早起きね」
「殆ど眠れなかったのよ、あの二人の言い争いのせいでね」
「言い争い?」
あぁきっとドレッサーの事だな……そう思ったが香津がどう言っているのかが分からないのでこっちからは敢えて言わない。
「えぇ、由梨さん部屋の模様替えでドレッサーを外に出してたんですって。それに香津さんが引っ掛かってしまったらしくて……まぁあんな所にドレッサーなんて置いたら邪魔に決まってるんだけど」
「その現場見たの?」
「一応ね、誰かが引っ掛かったりぶつかったりしても当然な感じだったわよ。それでも由梨さん『人ひとりは通れるはず』って言い返したものだから、そこからはもう醜い言い争いよ」
一体どんな言い逃れしてるんだか……私は最早由梨に呆れていた。
「今はどうなってるの?」
「部屋に入れてる、私手伝ったから間違いないよ」
そう……私はあの現場にいなくて良かったと心から思った。
「たださぁ、昨日麻帆がトイレ掃除したのよね?」
「えぇ、一人になって真っ先に」
私はトイレ掃除を一番最初に済ませるのがルーティンワークとなっている。苦手なものを先に済ませるのが後々楽だからだ。ミカもその事は知っている。
「って事は九時までに済ませてるわよね?」
「えぇ、時計でいちいちチェックはしてないけど」
「まぁそうよね、実は昨夜トイレが臭かったのよ。それで香津さんは麻帆がサボったんじゃないか?って言ってたけど、そこはちゃんとフォローしておいたから」
あぁ、そういう話になってるのか。まぁ半日経てば……って事でそのまま黙っておけばいい。
「ところがそれで終わらなくて、由梨さんは麻帆が掃除をサボった体にして実は男連れ込んでたんじゃないか?って言い出したのよ。それで証拠出せ!って話になって、そう言うならドレッサーが証拠だ!って……もう訳分かんない」
ミカはため息を吐いて肩を落としていた……私も訳分かんないって言ってもいいだろうか?
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