ⅩⅩⅢ
それから何日かが過ぎ、何を思ったか由梨が私の部屋を訪ねてきた。
『麻帆ちゃん、少し話せないかなぁ?』
う~ん、今原稿書いてる最中だから集中したいのだが……。
「締切がヤバいので今はちょっと……取り急ぎの内容でしょうか?」
『う~ん、だと思う』
イヤ、思われても知らんがな。あんたの事だろ?判断に困る返答しやがってとも思ったが、ここは仕方なくドアを開けた。
「どうかなさいましたか?」
由梨は何故か酒とつまみを持って部屋の前に立っていた。なぜにお前と酒を酌み交わさにゃならんのだ?
「ちょっと飲まない?」
「それは無理です。取り急ぎの内容なのでは?」
うん、由梨はずかずかと部屋に入ってきて勝手につまみを広げ始めた。はぁ~チー鱈の良い匂いが鼻をくすぐる……ってそんな場合じゃないんだこっちは。
「トイレの臭い相変わらずだよね?何か対策考えてる?」
「対策と言われても……四六時中監視したり防犯カメラでも付けるんですか?」
「それなんだけど、今玄関のホワイトボードに在宅か外出か書いてるじゃない?あれに時間も書き足してみるってどうかな~?って思って」
……それこっちの仕事の邪魔するほどの話題だろうか?まぁトイレの臭いに関しては証拠が無い以上犯人探しも出来ないのだが。しかしあのホワイトボードだって由梨が一番機能させていないのによくもまぁその案が出せたものだな。
「締めつけ過ぎは良くないんじゃなかったんですか?」
私は最初の頃に由梨が言っていた事を蒸し返してやる。そもそもホワイトボードの件で反対したのは由梨だけだ、何だったら香津が一番きちんと活用させているくらいである。
「そうなんだけど……やっぱりトイレは快適に使いたいじゃない、背に腹は変えられないよ」
「そうですか、でしたら夕食の時にミカさんと香津さんにも提案してみてはいかがでしょうか?私今日は夕飯ご一緒出来ませんので」
「私も今日はこれでもう食べない予定、だから麻帆ちゃん……」
冗談じゃない、たまたま私が不在の時にミカが代わりに伝言してくれた時お前何つったんだ?忘れたとは言わせん。
「『自分の案は自分で言え』そう仰ったのあなたですよね?」
「それは……」
「ご自分でお願いします、口伝いだと本人の思惑とズレた形で伝わるんでしたよね?」
仕事に戻ります。私はそれきりパソコンに向かってキーボードを叩く。しばらくはボリボリムシャムシャとつまみを食ってた由梨だったが、二人いるところで結局は一人酒の状況に飽きたのかいつの間にか部屋から居なくなっていた。
この日香津から翌日の休業日を利用して職場の同僚宅に一泊した後日帰り旅行ををするとL○○Eがあった。急遽決まったので連絡が遅くなり申し訳ないと言うひと言も添えてあった。
基本的に傍若無人な女である香津だが、こういうところは割としっかりしている。程よく距離の置ける違う部署の同期程度ならそれなりに信頼出来る相手だと思うが、外と中との温度差があり過ぎるので今の関係では決して好ましい女ではなく、なるべくなら関わりたくないタイプだ。
それでも外面がきちんとしていて身長も高い彼女はそれなりにモテるのだろう。報連相がきちんと出来て仕事もそつ無くこなす女はなかなかの高物件と言えるのだと思う、あくまで男視点ではそうなのかな?という想像上の話だが。
その点私はライター一本ではまだ食べていけないフリーターなので世間一般ではお手頃以下の粗悪物件だ、わざわざこんなの相手にするほど男性だって暇じゃない。仕事を覚えるのが遅く人の二倍頑張ってようやく一人分の仕事がこなせる程度だ。
私は何気にハイスペックな香津をどこかで羨ましく思っているのだろう。それだけに裏表の激しさに翻弄され、それに疲れるのが嫌で甘んじて受け入れようとしているのかも知れない。
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