ⅩⅩⅡ
「ただいま戻りました」
相川さんのお陰で食費が浮いた私は、仕事もお腹も満腹状態で帰宅すると何故かいきなり香津に喧嘩を売られてしまった。
「ちょっとあんた、態度悪いんじゃないの?」
一体何の話だか……思い当たるふしが無いので黙って次の言葉を待つ。
「仰木さんに失礼だと思わないの!?」
あぁ……馴れ馴れしい上に告げ口も達者なのか。とことん面倒臭い男だ。
「仰木さんはせいぜい挨拶程度の顔見知りですよ、仕事場で友達感覚で話されても困ると申し上げただけですが」
「彼は人懐こい方なの!それが分からないの!?」
アレ人懐こいって言うのか……私てっきり鬱陶しいだと思っていました。
「すみません、私ああいう方苦手なんです」
「へっ!?あんないい人苦手って……あんた変わってるね」
あんなのがいい人と思えるお前も変わってるがな……とはもちろん言わない。親しき(ことは全く無いが)仲にも礼儀あり、この手の女には何も言い返さないのが穏便に乗り切るコツだ。
「そう……なんですかね?」
「そうよ!顔と名前が分かってんなら彼に失礼な態度取らないでよ!」
「……」
正直返事の仕様が無い、私は一気に疲れが出てフラフラとした足取りで部屋に篭もることにした。はぁ、面倒臭ぇ。
それから少し経ってミカが帰宅してきた。香津と由梨の仲は完全に冷え切っているのか、このところミカとも話をするようになっている。
『麻帆ったら私の知り合いに冷たく当たるのよ!』
……うん、お前も結構な粘着質か。
『大して親しくない方なんじゃないの?麻帆ってちょっとコミュ障だから』
『にしたって『名前で呼ばないでください』って冷たくない?彼フレンドリーなだけなのに!』
……アレをフレンドリーって言うんだね、私には鬱陶しいと面倒臭いしか思い付かないが。
『あぁ、そういう事。ベタッと来る方駄目なのよあの子。気難しいとこあるから上手に距離を取れる方でないと……』
『え?何それ面倒臭っ!』
『ならその知り合いの彼に言っといてあげたら?『あんま話し掛けてやらなくていい』って。その方がお相手さんも傷付かないでしょ?』
ミカ、上手く言ってくれてるのはありがたいがまるで私に問題がある的な言い方してないか?でも会話の相手が相手だからその方が良いのか。
『それに男性の好みが被る方が嫌じゃない?私はどんな方か分からないから何とも言えないけど』
『凄く優しくて気さくで素敵な方よ』
へぇ、優しくて気さくで素敵が聞いて呆れるわ。
『だったら麻帆が気に入っちゃったらかえって困るじゃない、そう考えれば腹も立たないと思うよ』
『……それでも麻帆は変わってる、ミカだって彼に会えばきっと好きになると思うの。機会があれば紹介するね』
『機会ガアレバネ』
ミカの返事には魂が全く込められてなくて私は思わず笑ってしまった。良かった、一人で部屋に篭ってて。
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