ⅩⅣ
ミカの車で自宅に戻り、忘れないうちにお土産菓子をダイニングテーブルに置く。
「別に食べ切っちゃって良いわよ」
私はハーブティーの準備をしながら言う。
「こんなに食べ切れないわよ、四人分のつもりで買ってるんでしょ?」
「まぁね、まさか居ないと思ってなかったから角が立たないように」
ついでに言えばミカにだけはお土産を買ってきてある。何せこのところ嫌な役回りをさせてしまっているのでせめてもの詫びの印だ。私は二人分のハーブティーをテーブルに置き、小さな紙袋に入っているケータイストラップを渡した。彼女は特定のキャラクターが大好きで、旅行に行ったりした時はご当地限定の物を色々買い集めているのだ。微力ながらも彼女のコレクションに協力し、こうしてお土産として渡している。
「ありがとう、大事にするね」
ミカはそれらを使うことは決してしない。買って集めて愛でるだけ、私には皆目理解できないが、人それぞれ満足感が違うのだろう。そう言えば檜山も瓶ビールの王冠を集めていて伊織に呆れられていたっけ……とどうでもいい話を思い出してしまった。
「ところでさ、何か気付かない?」
どうやら本題はここからのようだ。きっと一昨日違和感どころか悪臭を漂わせていたトイレの事と冷蔵庫の中身の事を言っているのだろう。
「トイレがいつもより汚れてた、一昨日の事だけど。それと冷蔵庫の中のお茶、あれ誰の? あのメーカー普段誰も飲まないよね?」
それと今朝お風呂で使ってるボディーソープの匂いがいつもと違ってた。普段使ってるポンプに入ってたからすぐには気付けなかったけど。
「ボディーソープは誰が変えた? 普段のと匂いが違ったんだけど」
「それは私、薬局に行ったら香り違いのしか売ってなかったから。お茶は多分香津さんだと思う、由梨さんも麻帆と同じような事言ってたから」
「彼女なら確認すればいいじゃない、仲良しなんだから」
何故ミカに訊ねたのか? 香津とは一番折り合いが悪いのに。
「最近そうでもないみたいなの。何か居辛くてさ」
ミカはハーブティーを飲んでため息を吐く。
「だから最近香津さん家に寄り付かなくてね。それは別に構わないけど、こっちが家空けてる時に状況が変わってるから落ち着かなくて」
へぇ……あの二人喧嘩でもしたのだろうか? まぁ『夫婦喧嘩(ではないが)は犬も食わず』なんて言うからなるべく近付かないようにしておこう、『触らぬ神に祟りなし』だ。
「そう、じゃあ今日と明日はのんびり出来る訳だ。まぁ仕事もあるからそうもいかないだろうけど」
「うん、明日は代休をもらってるの。たまには一日ゴロゴロしてようかと思って」
「だったら掃除は私がするよ。二週間以上家を空けてた訳だし、二階は触らなくていいんだから前よりは楽ちんよ。洗濯物だけ出しといてね」
「うん、分かった。だったら今日は店屋物にしない? 先週ポストに入ってたんだけどここのお寿司屋さん出前頼めるみたいなのよ」
ミカはペーパーラックから一枚のチラシを取ってきて嬉しそうに見せてきた。この寿司屋最近近所に出来て店の前をよく通る。気にはなっていたので出版社の近所にもある別の支店で食べてみたがお世辞にも美味しいとは言えなかった。
「ここ美味しくないよ、それだったらそこのスーパーの隣の寿司屋でテイクアウトした方がまだまともだって」
「そうなんだ、何かがっかり。でも歩いて行ける距離だから運動がてらってのも悪くないわね」
私たちはティータイムを切り上げてから寿司屋まで歩いていく事にした。
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