ⅩⅢ

 夕方、打ち合わせが終わったので早速ミカにメールをすると【そのまま正面入口で待っててほしい】と返信があった。ひょっとして迎えに来てくれてるのだろうか?

 ミカは日頃から通勤で車の運転をする。基本的に落ち着いた性格ではあるのだが、ハンドルを握ると豹変して一気に気性が荒くなる。その割に大きな違反や事故を起こした事は無いのだが、発進で抜かされただけで舌打ち、煽られればわざとスピードを落とす、抜かされると抜き返したりスピードを上げて入れてやらなかったりするので時々肝を冷やされる。

 今日は平穏無事に……と願いながら迎えを待っていると水色のコンパクトカーが目の前で停車した、ミカだ。ここはあまり長く停車できないので、私は急ぎ足でミカの車に乗り込む。

「悪いね、迎えに来てもらっちゃって」

「良いよ全然。ちょっと話もあったから」

 何だろう? きっと香津と由梨に聞かれたくないからわざわざここに来たのだろう。

「あの二人に聞かれるとマズい話なのね?」

「まぁ今日明日はその心配しなくてもいいんだけど」

 へっ? あの二人何か予定でもあるのだろうか?はて、そんな事言ってたか?

「憶えてない? 香津さんは会社の慰安旅行で明後日の夕方まで帰ってこないわよ」

「私いなかったんじゃないの?」

 そんな話全く記憶に無い。

「いたわよ、取材旅行に行く何日か前の話だもの」

 私はその時期の記憶を辿ってみるが全く思い出せない。まぁ正直いない方が片付きも良いのでどんどんお出掛けして頂きたいと言うのが本音だが。

「そうだっけ? 憶えてないわ」

「まぁ良いけど。やっぱりあんたあの二人と仲良くする気無いのね」

「それお互い様だと思うけど」

 私は一昨日の由梨の態度を思い出して少々イラッとした。香津とは馴れ合うよりも適度な距離を保っている方が上手くいくような気がするので不要に近付かないだけだ。

「香津さんはともかく由梨さんはそうでもないみたいよ。一昨日ヘロヘロの麻帆にトイレ掃除急かして怒らせちゃった、って申し訳無さそうに言ってたし」

 随分とずるいやり口を使うなと思った。私には気遣いの欠片も見せやしないのに、敢えて私と親しいミカに反省の色を見せて同情を買う……何気に腹黒い女だ。正直今更かよと言う思いしかないので敢えてスルーさせて頂く。

「それで思い出した、帰ってから旅土産出しとかないと」

 トイレ掃除に気を取られて本気で忘れていた。ミカは私の性分を知っているので、ため息を吐きつつもこれ以上の事は突っ込んで聞いてこなかった。

「それと由梨さんも何日かはご実家に戻るって」

「そう、明日まではゆっくり出来る訳ね。執筆活動が捗っていいわ」

「まぁあんたにとってはそうかもね……何でもお母様がヘルニアで動けないらしいからいつ戻れるかは分からないって」

 ヘルニアかぁ……私も腰椎のヘルニア持ちなのであの辛さはよく分かる。足が痺れて歩くのも困難だし寝返りもまともにうてなくて案外生活に支障をきたすのだ。

「ヘルニアかぁ……ご養生なさった方がいいわよね」

 私は他人事の様に外の景色を見つめながら独り言を言った。

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