ⅩⅡ
どうにか原稿を書き上げ自宅に戻ると平日にも関わらず由梨がいて驚いた。
「お帰り麻帆ちゃん」
「ただいま戻りました……」
私は兎に角ベッドに横になりたかった。挨拶もそこそこも部屋に荷物を置こうとすると再び声を掛けられた。
「麻帆ちゃん今日トイレ掃除だよね?」
それ今言うか? 一応“カン詰め”明けでそれなりに疲れてるんだから仮眠くらい取らせてほしい。
「そう、でしたね」
取り敢えず荷物を部屋に放り込み、フラフラとした足取りでトイレに向かう。仮眠取りたいと主張したところでネチネチ文句言われるのも面倒臭いのでさっさと済ませてしまおう。
先に用でも足すか……と思って個室に入るといつになくアンモニア臭がキツく感じる。こんな事今まで無かった、香津や由梨が増え、一時期掃除が滞っていてもここまで臭かった覚えは無い。
こんな中で用は足せないわ……私は早速ゴム手袋をはめ、トイレブラシと洗剤を持って便器を磨くが臭いは取れない。今度はトイレ用シートで便器を拭くも完全には拭えていない。
それにしても何? 何気に手にしているトイレシートを見るといつもより汚れている。これはおかしいと新しいシートに取り替えて床を拭くと殆ど臭いが消えていった。止せばいいのにシートをチェックするとこれまで見たことの無いくらいに黄ばんでいる。
「どうすりゃ一体こんなに汚れるの?」
その理由は何となく察しが付いた。これは間違いなくアレだ……一通り掃除を済ませてからトイレを出て、迷わず冷蔵庫を開けると予想通りの展開が待っていた。
「やっぱり……」
私が思わず独り言を呟くと、ダイニングにいたらしき由梨が何が? と声を掛けてきた。
「いえ何でもありません」
私は冷蔵庫を閉めて部屋に向かうと又しても呼び止められる。今度は何?
「疲れてそうだからお茶でも……」
「いえ、疲れてますので横になりたいです」
今は飲み物よりも睡眠が欲しい……私はゆらゆらとした足取りで部屋に入り、愛しき我がベッドで死んだ様に眠り続けた。
コンコン、コンコン。
何だろう、今日も奇跡的に(最近はそんな事も無いが)夕飯を知らせに来てくれたのだろうか? は良いが今は余り食欲が無い。今日の食事当番は香津だから反応が無ければさっさと諦めて先に食べるだろう。
コンコン、コンコン。
今日は随分としつこいなぁ、もう少し寝ていたいのだが……と思って布団を頭から被るとミカの声が聞こえてきた。
『麻帆、起きてる?』
「ん~、寝てる~」
『返事出来るんなら開けなさい、丸一日以上寝てたんだからそろそろ起きたら?』
丸一日以上……マジでか? 私はすぐそばにある置き時計を掴んで時間をチェックする。時刻は八時八分、二十四時間表記に設定しているので朝八時であるのは間違いない。日付は六月十八日、ここに戻ってきたのが十六日だから……本当に丸一日以上眠っている事になる。今日は昼から連載コラムの打ち合わせがあるのでこれ以上寝ていられない。
「ん~、分かった」
私はゆっくりと体を起こしてカーテンを開ける。この時期は太陽も昇りきっていて、六月にも関わらずカラッとした晴天だった。取り敢えず窓を開けて空気を入れ替え、髪の毛をブラッシングして一つに纏めると洗面道具を持って部屋を出た。
「おはよ~」
「おはよう、香津さんと由梨さんならもう出掛けたわよ」
「あっそう……ところで学校は?」
「創立記念日で休み、この後予定は?」
「昼から打ち合わせが一本入ってるだけ、夕方には戻れる」
「そっか、じゃあ終わったら連絡ちょうだい」
分かった。私は顔を洗いに洗面所に入り、その間にミカが朝食の支度をしてくれた。
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