Ⅲ
その音はしばらく続いた。耳栓するなりヘッドフォンで音楽でも聴いて紛らわせてもよかったのだろうが、これをいつか書く小説のネタにでもしてやるかという野心とも邪心とも取れる感情に支配されていた。
『あっあっあっあっ……』
香津の喘ぎ声に合わせて部屋のミシミシ音も激しくなってくる。オマタとオマタのぶつかり合う音も聞こえてきて(これは幻聴かも知れない)天井越しでもセックスの激しさが伺える。
『あああぁん! イイッ! もっとぉ!』
我ながら悪趣味かも知れないが、香津が喘げば喘ぐほど私の頭は冷めていく。男の方も必死なのだろうか、話し声とは違う甲高い声であんあん鳴きまくる年増の女に興奮して呻き声まで聞こえてきた。さぞや楽しそうに腰を振りまくっているのだろうが、心臓発作で救急搬送はやめて頂きたいところだ。
「お若いのぅ」
私はベッドに寝転んで天井を見つめていた。流石に無いとは思うが天井が抜けたら私は確実に死ぬな。そんな阿呆な事を考えながら阿呆なカップルのまぐわい音を聞いている、そろそろ佳境か?
『出してぇ! 出してぇ!』
マジかよ、と思った瞬間男が最後の一突きでもしたのかドンッ! という音を立てて香津の絶頂を物語る叫び声が聞こえてきた。
終わったか……天井の揺れは嘘のように静まり返り、香津の喘ぎ声も聞こえなくなった。
はてさて、男が発射したザーメンの行方は何処へやら……多分これは生挿れ中出し確定ですな。余計なお世話ではあるが本日既に何度目かのセックスの後、今頃若いペニスでもしゃぶってらっしゃる事だろう。
私にはフェラチオという行為の意味が分からない、男はなぜあんな物を女にしゃぶらせたがるのか……あれはお小便を出す場所だ、いくら定期的に洗っているとは言えあんな物口に入れたくない。ましてやしゃぶってる最中にイカれた日にはもう地獄である、ぶっちゃけ精液など飲みたくない、例えそれがアンチエイジングの特効薬であっても。
取り敢えずセックスのピークは過ぎたようだしそろそろ眠くなってきた。我ながら図太い神経しているものだと自分自身を嘲笑しつつ布団に潜って目を閉じた。
一応連絡はあったので知っていたが、参観日の準備で帰宅しなかったミカが身支度の為一旦家に戻ってきた。基本朝方の私はあの一件にもめげず朝ご飯を作っている。今日は五人分、無駄に若々しい(実際若いようだけど年齢までは知らない)中出し男の分も作らねばならんので量が多い。
そう言えばこのままだとミカとザーメン男鉢合わせそうだな……まぁ今更気にしても仕方が無いが、ミカはパパっと支度を済ませてダイニングにやって来た。
「おはよう、昨夜帰れなくてごめんね」
「大丈夫、仕事ついでに外食してきたから。それよりちゃんと眠れたの?」
いくら体力があると言ってもミカだってもう三十一だ、このところ帰りも遅いし家でゆっくり休めていないので他人事ながら心配になってくる。
「うん、今はここで寝るより全然良い」
流石に玄関の靴で気付いたようだ、どおりでいつも以上に支度が早い訳だわ。
「朝ご飯出来てるよ、大した物じゃないけど」
私はご飯、お味噌汁、卵焼き、鶏肉の照り焼き、茹でブロッコリー、南瓜の煮付け、もやしのナムルもどきをテーブルに並べていく。なぜこんなにおかずがあるかって?今日は土曜日で給食が無いためお弁当を作ったのだ。
「良かったらお昼にでも食べて」
「うわぁー助かるぅ、ありがとね」
ミカは笑顔を見せて拙いお弁当を受け取ってくれた。私達は決まった椅子に座り、しばらく振りに和やかな朝食を楽しんだ。
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