第6話 本業は副業?
俺は真莉愛の言っている意味がわからなかった。
「あの、ここはシステム会社ですけど、なんで、賃貸管理の仕事をここでするの?」
「ふっふっふー、研二さん、あなたのチームが作っているプログラムは、何ですか」
「空気清浄機に使うセンサーのプログラムだけど」
「そのセンサーを搭載した空気清浄機、何処で使われるか知っていますか」
「いいや。仕様通りにプログラム組み上げるだけで、利用場所までは知らないよ」
「メゾン間飼です」
「はぁ?うちのアパートで?」
そんなご大層な物が普通のアパートで必要なはずが、と思ったが、そういえば、メゾン間飼の空調設備は普通のアパートに付いているエアコンとは違い集中制御する、特殊な物だったことを思い出した。
「まぁ、正確にはベルクシステムで扱っているセンサー関連のプログラムの一つなんですけどね」
「そういえば、一体何を検知するのか不明なプログラムだったような」
「魔族が出す『瘴気』と人間が出す『気』を検知する為のプログラムを作ってもらっているんです」
「俺はそんなもの作っていたのか…」
「そんな物ってなんですか!!大切なものなんですよ」
真莉愛がプリプリしながら食って掛かってきた。
この仕事、テスト方法も決まっているから、仕様通りにプログラムを組み上げるだけで単純と言えば単純なのだが、作業量がとてつもなく多い。
何重にもループする意味不明な検知のステップを至る所に仕掛ける仕様になっており、コードを書いていると
実際、俺が束ねるチームで体調不良を訴えるメンバーが出始めている。
「悪かった。確かに、大事な物だよな」
俺は両手を上げ、降参、というポーズをとった。
「わかればいいんです」
なんか、えらそうだな…
「で、なんで、真莉愛がうちの会社に来てるの?コーディングもできないんでしょ」
「決まってるじゃないですか、大家さんのケツを叩きに来たんです」
「えっ!?」
「期限内にこのプログラムが仕上がらなかったら、ムチ打ち百回では済みませんよ」
鞭打ちはキツイな、と思いつつボンテージ衣装を着た女王様バージョンの真莉愛を想像した。
「研二さん、どうしたんですか。ニヤついて」
「い、いや。何でもない。じゃ、ムチに打たれないよう、頑張って仕事するか」
俺は慌てて会議室を出て、自分のデスクに戻った。
その日から急に仕事のピッチが上がった。柿崎マリア(=佐々木真莉愛)が俺にプレッシャーをかけまくるのだ。毎週行われる定例会では、事細かに進捗具合の報告を求め、手間取っている旨を報告すると、如何にこのプログラムが大事なのかを演説し始める。しかし、彼=彼女は、開発作業を手伝うわけではない。俺の手を取り「お願いです。早く完成させてください!!」と目をウルウルさせて迫ってくるのである。
また、問題が解決すると「やりましたね研二さん!!」といって、人目もはばからずに抱きついて喜びを表す。(むろん、男の姿で)
結果、俺と柿崎のホモ疑惑が浮上する。
しかし、そのような疑惑や噂が沸き立っても、マリア(=真莉愛)の方は、相変わらず女子社員に人気があり、変な目で見られるのは俺の方だけである。
仕事に支障が出ているわけではないが、釈然としない。
「成田さん、ベルクシステムからメールが来てるので、転送しますね」
別のチーム所属の若い女子社員から知らされた。別件で動いてる案件に俺たちのチームの案件が記載されていたのだ。
この前納品したプログラムについて確認したいと。
うーん、なんか不具合があったのかな。真莉愛にプレッシャーかけまくられ急ピッチで仕上げたがテストはしっかり行い問題無かった。
メールの内容だけではわからないから、真莉愛(柿崎)を呼んで確認しよう。
「柿崎さん、ちょっといい」
周りの女子社員がざわつく。
「あら、成田さん、社内で逢い引き」隣のチームの女リーダーの吉田がからかう。
「違う、デートの約束」と、軽口で答える。最初のうちは躍起になって否定していたが最近はもう慣れた。
「研二さーん、何ですか」
真莉愛(柿崎)が嬉しそうにやってきた。
「ベルクシステムさんから、この前納品したプログラムで確認したいことがあるってメール来たんだよ。詳しいことは纏めた後、またメール送るって書いてあるけど、マリア、何か聞いてる」
「いいえ、何も聞いて無いですよ。そのプログラムを使ったセンサーは確か、宮田さんの部屋の機器に試験的に使ってるんですよ」
「そっか、まぁ細かい事は後でメールくるだろう」
定時間際になってベルクシステムの担当者からメールが来た。
「えーと、この前納品したプログラムをセンサーに組み込んだら…機械が発火寸前まで熱くなる…って、何じゃこりゃ」
俺がメールを読んでいると、マリアが慌てて俺の所にやってきた。
「研二さーん、メゾン間飼が火事です」
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