トラブル対応編

第5話 会社にて

 全く、先週はエライ目にあったな。

 週明けの月曜日、出社した俺は自分の端末を立ち上げながらブツクサ呟く。

「イヤなメールは無いな。ヨシヨシ。月曜日から幸先いいぞ」

 土日は二日酔いで何もできなかった。

 家飲みなので大した金額にはならなかったが、魔界の住人が飲む酒の量はハンパではない。

 真莉愛も須崎さんも細い体のどこに入るのかと思うほどの飲みっぷりだった。

 途中参加した香澄さんも同様である。

 しかし、魔界の住人であろうが、家賃をキッチリ収めてくれれば問題無い。

 他の住人とのトラブルは困るが、二階の住人はみんな良さそうな人達(?)だから、大丈夫だろう。


「はい、みんな、注目」

 課長がみんなに声をかける。

「この前、協力会社から新しい人がくると話したけど、今日から来てもらうことになっている。男の人だが、この業界は初めてだから、わからないことは教えてあげるように」

 新しい人が来るんだ。うちの会社もブラックとは行かないまでも結構人使い荒いから入れ替わり激しいんだよね。ウチはベルクシステムと言うシステム会社とパートナー契約を結んでいくつかの仕事を一緒にやっている。

 協力会社さん、ベルクシステムの人にとっては、周りはみんな別会社の人間だから気も遣う。しかも業界未経験者と来た。この前の人は3ヶ月で交代だったのに大丈夫なのかね…

 せめて一年は持たないと生産性が上がらないが、現場に来る方にとってキツイことには変わらない。

「今は総務で手続きしている。午後のミーティングで引き合わせるから、よろしく」

 まぁ、俺の仕事には直接は関係ないだろう。


 昼休みが終わった後、午後のみーティティングが行われる会議室に向かった。

 俺以外のメンバーはすでに席についていた。

「成田さん、聞きました?今度来る人、超イケメンらしいですよ」

 女子社員が俺に話しかけてきた。

「ふーん」なんか面白くないな。

 美女や可愛い女の子が入って来るなら歓迎だが、野郎か…

「みんな揃ってるな」

 課長が男を連れて会議室に入ってきた。

「紹介する。今朝話したベルクシステムの方で、柿崎 マリア君だ」

「はじめまして、柿崎です。今日から一緒に業務をさせていただきます。よろしくお願いします」

 女子社員がざわついた。

 確かにイケメンだ。身だしなみ、黒い髪もきちんと整えており、清潔さが感じられる。

 だが、どっかであったような気がするのだが、気のせいだろうか。なんか、中性っぽい人なんだよな、柿崎さん。

 しかも男なのにマリアって、ハーフか?

 いや、それでも珍しいだろ。

「で、柿崎君の業務だが…」課長が柿崎さんを連れて俺の席の近くまで来る。

 多分、隣の女子社員が担当している案件だな。ホットになっているし。

 でも、『あたしと同じ担当になりますように!!』と思っている女の子は多いじゃないかな…。

 まぁ、俺には関係ない。人手は足りないがイケメンと仕事するのは苦手だ。

「じゃ、成田。お前の担当している案件につけるから」課長が俺の肩を叩く。

「えっ!?俺の所?」

「そうだよ。お前、人手が足りないって言ってたじゃん」

「そうですけど、もっと切迫しているチームがあるんじゃ」

「いきなり、それは無理だろう。それにお前の担当がベルクシステムさんと、今、一番関わってるじゃないか」

「よろしくお願いします、成田さん」柿崎さんが目をキラキラさせて俺の手を取り握手する。不覚にも一瞬、柿崎さんに見とれてしまい、ポワーンとしてしまった。

 すべての女子社員が俺を睨んでいる。

 俺のせいじゃねーよ。

「じゃー、しっかり教えてやれよ。じゃ、これで解散」

 会議室を後にした俺は、柿崎さんに話しかけた。

「柿崎さん、このビルのこと、案内してもらいました?」

「いいえ、まだです」

「じゃ、とりあえず、このビルの事から案内しますね」

 俺は柿崎さんを連れてフロアを出てエレベーターの前まで来た。

「えーと、とりあえず、マシン室と会議室、喫煙ルームと社食かな。そこを案内しますね」

 おれは、ビルの事を柿崎さんに説明しながら案内した。

「社食は綺麗なんですけど、人気があって、いつもいっぱいなんですよ」

「そうなんですか」

 柿崎さんは素直に受け答えしてくれる。案外、仕事しやすい人なのかもしれない。

 それにしても、誰かに似てるんだよな。

「でも、昼飯時や夕食時以外はカフェテリアとして営業してるので。あとで社食に案内しますね」

 エレベーターに乗り、まずは会議室の場所を案内した。

 開いている会議室に入り、電気をつける。

「ここが、一番狭い会議室。でも、テレビ会議とかもできますから離れた拠点の人と打ち合わせするときに使います」

「へー、まるで魔法のようですね」

「はは、魔法って、今時そんな…」小学生でも言わないでしょ、と答えようと柿崎さんの方に振り返った。

「こんにちは、大家さん」

「えっ!?」

 目の前にスーツを着た柿崎さん…いや、真莉愛がいた。佐々木真莉愛だ。赤く染めたショートヘアで柿崎さんと同じ紺のスーツを着ている。

「なんで、なんで真莉愛さんがここにいるの?って、柿崎さんは」

「柿崎は、わたしですよ。私が魔法で変身していたんです」

 変身って、髪の色も体型も違ってるじゃない。

 赤い髪で…今は胸も大きくて…というか、白いワイシャツが胸の大きさで、はち切れそうなんですけど。

 俺は、いろいろ考えて突っ込もうとしたが、やめておいた。

 あのアパートの二階に住んでる人達と佐々木真莉愛は魔界の住人だ。

 こっちの世界の感覚で考えてはいけない。

 俺は気を取り直し、改めて真莉愛に尋ねた。

「なんで、真莉愛がここにいるの?ダブルワーク?」

「いやですよー、配属もすべて魔法でチョイチョイって操作したんですよ」

「はぁ、チョイチョイ…ですか」

「あの~、失礼ですけど、プログラムとか組めるんですよね?」

「えっ?そんなのできませんよ」

「魔法でどうにかするの?」

「なんでですか?わたし、ここで難しい仕事するつもりありませんよ。難しいことは研二さん、お願いします」

 頭痛くなってきた…

「じゃ、一体、ここに何しに来たの?」

「決まってるじゃないですか。大家さんの仕事、メゾン間飼の賃貸管理サポートですよ」

「はぁ?」

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