第3話 魔晶石?
「真莉愛さんって、魔女だったの」普通の人間ではない事は察していたが、彼女が魔女だったとは。
「そうですよ。悪魔族の由緒正しい魔女なのです。さっきも武さんの部屋からこの部屋まで転移してみせたでしょ」
真莉愛はどうだマイッタカ、と言わんばかりに胸を張って堂々としている。
「真莉愛自身は転移できてなかったがな」武さんが笑いながら口を挟んできた。
「おまけに、どこ飛ばしちゃったんだろうって、慌てふためいて靴も履かずに飛び出したんだぜ」武さんは必死に笑いをこらえている。
「そうだったんですか…まだ見習いの魔女さんとかですか」
「失礼な。私は一人前の魔女よ。さっきのは、たまたま慌てていて、失敗しちゃっただけで、ふ、普段は転移魔法程度で失敗なんてしないもん」真莉愛が、顔を赤らめ頰をプクッと膨らませた。怒った顔も可愛いな。
「あのー転移魔法って、さっきの光の円柱のような…」
「そう、そうです。あの魔法陣で私の住んでいる部屋と、このアパートの各部屋をパスで結んでいるの」
「えっと、パスって…」
「パスって言うのは、まぁ、魔法をやりとりできる通り道ね。似たような物にエリアというのがあるわ。エリアは魔法を及ぼせる範囲の事よ」
「はぁ、範囲ですか」
魔女と言われただけでも、『この人、何言ってくれちゃってるんだ』という感じなのだが、実際、武さんや香澄さんがオオカミになったり爪を長ーく伸ばしたり、別の部屋へ転移したりしたから頭ごなしに否定はしないが、どちらかというと、魔法よりかは大企業の秘密の実験とかの方が受け入れやすい。俺が理系男子だからだろう。
「そ、それでですね。なんで、魔界の住人が私のアパートに住んでいるんです。いや、別に、家賃払ってくれれば住んでも良いんですけど、ほ、他の住人に」
迷惑じゃないですか。と言おうとしたが、よくよく考えてみると、登記を済ませ、このアパートを所有してから約一ヶ月。今のところ、他の住人とトラブルがあったと言うことはない。
「あの〜、なんで皆さん、魔界じゃなくてここに住んでいるんですか」
「そう、魔法の説明より、その説明をしなくちゃいけなかったんです」
真莉愛が腕をバタバタさせた。黙っているとキャリアウーマンに見える彼女が子供っぽい仕草をするのもいい。腕をばたつかせてるとバストが結構揺れている。
「私達はこの世界の人間が出す特別な気を集めているのです」
「特別な気?」
「そう、人間が出す特別な気です。私達、魔界の住人が出す瘴気とこの世界の人間が出す特別な気を混ぜて出来るオーラを使って魔界で取れる鉱石を加工すると、特殊な結晶ができるのです」
「はぁ、結晶ですか」
「そう、私達は魔晶石って呼んでるわ」
「その魔晶石がどう言うもので、どんな事に使うのかも教えてもらえると嬉しいです」
「うーん、簡単に言うと魔力を沢山蓄積している結晶体なわけだけど、質が高いものは、利用用途が多いのね。例えば、普通の魔晶石は単なる電池やちょっとした火薬や爆弾程度にしか利用できないけど、質が高いものは、魔晶石を使って壊れたビルを元どおりに修復できたり、死人を生き返らせたり、まぁ、早い話、なんでもできちゃう位の物よ」
「へぇ。すごいね」俺はちょっと感心した。
「勿論、そんな物は滅多にお目にかかれないわ。私達の世界、魔界では、質の良い魔晶石の保有量は重大な国力の証なんです。こっちで言う核保有量並ですね」
「人間の出す特別な気って」
「そう、それがとても大事。簡単に言うと、感情が大きく変化する時に出る気ね」
「大きく変化する時にって言うと…」
「うーんと、突然うれしい事が起きたりとか、わかりやすい例で言うと、引きこもりの人に突然恋人できてとてもハッピーになっちゃう時の気とか。こんな場合の気はスッゴク良質な魔晶石を作れますね」
「引きこもりに突然恋人できるなんて、そんな事あるんですか」俺は少し呆れた。
「それくらい、予想外に嬉しい事があった時に出す気ですよ。で、人間が出す気を部屋に設置してある空気清浄機付きエアコンで吸い取って室外機の中にある容器に取り込んでいるんです」
俺は、はぁ、としか言えない。割にいいタイプのエアコンが設置してあるなと思ったが、そんな機能が付いていたなんて…そう言えば、管理会社と契約する時、エアコンのメンテナンス量もソコソコの値段に設定させられたな。
「でも何で魔界の住人が住む必要あるの。どの部屋も普通の人間が住んで、気を機械で吸収して持ち帰った方が効率いいんじゃない」
「フッフッフ。良い質問ですね研二さん。気だけだと、そんなに長く保存できません。それどころか、魔界に持っていっても容器の蓋を開けただけで、すぐ霧散してしまいます」
「まぁ、気だからね」
「それに人間の気と混ぜ合わせる魔界の住人の瘴気も、誰のでも良い訳ではありません。人間の気と魔界の住人の瘴気は相性があって、良質で相性のよい瘴気じゃないと、混ぜても良いオーラになりません。だからこのアパートに魔界で選ばれた人に住んでもらって、気と瘴気を混ぜ合わせてオーラにしてから魔界に送っているんですよ」
真莉愛はバックからガラスの小瓶を取り出した。
「これがオーラです」そう言って俺に小瓶を見せてくれた。
中に白い湯気の様な気体がたゆたっている。不思議な事に、その気体がキラキラ光っている。
「もっと質が良いものになると、七色に輝いているオーラもあるんですよ」
「つまり、俺は、アパート経営しながら魔界にある君達の国の為に、オーラを作る手伝いをすればいい、という事ね」
「そういう事です。研二さんはオーラを作りつつ家賃収入を得る。私達魔界の住人はオーラを持ち帰って、魔晶石を作って国が豊かになる。win-winの関係じゃないですか」
「断ったら、こうなるの」俺は右手の親指を首に近づけて首を切られる様なそぶりをした。
「まっさか。そんなことしませんって」真莉愛は笑いながら否定した。
俺は少し考えた。アパートを手放しても良いが、これまでにかけた費用を取り返すだけの価格がつくとは限らないだろう。仮に、2階の住人全員立ち退かせても、ローンの支払いがキツくなる。引っ越しシーズンが終わった今では、現在の様な満室状態にするのは困難だろう。下手をすると、自己破産だ。
「わかりました。互いにうまくやって行きましょう」
「さすが研二さん。話がわかる」真莉愛が俺の手を取りブンブン振った。
「おーし、じゃ、お近づきの印に、みんなで飯でも食うか」武さんが嬉しそうに言った。
「お、良いですねー」義男も賛成する。
「んじゃ、真莉愛、他の部屋の連中も呼べよ、香澄の部屋で飲み会するって。
あと、新しい大家もいるから家賃ももってこいって」
魔界の住人との飲み会。どうなるんだろう。
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