第7話
翌日、学校に行ってもマイコさんから話しかけてくることはなかった。しかし、彼女の瞳は私を鋭く捉え、監視しているようだった。彼女の監視が解かれた放課後、ようやく私は自分が知りたかった、イランイランの効能を調べに行くことができるようになった。昨日の私は明らかに正気ではなかった。それは雰囲気に呑まれたなどという曖昧なものではなく、明確な力が働いていた。その力は、脳の奥まで痺れさせるようなイランイランの甘い香りにあるはずだった。
図書室でアロマオイル辞典を手に取ると栞が挟まっていたようで、勝手に本が開いた。開いたページは五十音順に書かれたアロマオイル図鑑の最初のほうのページで、私が求めていたイランイランの項だった。
イランイラン。濃厚で甘く、強い香りが特徴的。その香りには催淫作用があるといわれている。催淫効果のあるエッセンシャルオイルのなかではもっとも有名。
マイコさんはこの効能を知っていて、イランイランを焚いたのだ。何故? 私にはそれがわからなかった。
はらりと挟まっていた栞が落ち、私は慌ててそれを拾い上げた。その栞には綺麗な文字が綴られていた。
『研究室にいらっしゃい』
名前は書かれていない。しかし、それがマイコさんから私に宛てた手紙だとすぐにわかった。彼女は、私がこの本でイランイランを調べることを見抜いていたのだ。また同じように襲われてはたまらない、と私は手紙を無視しようと思ったが、指定の場所が気になった。研究室とは、おそらく先生の部屋のことだろう。なぜ彼女がそこに来るよう指示したのか、私は確かめてみたかった。
研究室の前に来ると、中からもの音が聞こえた。マイコさんがすでに来ているのだろう、と私は扉をノックした。
「アキさん! 助けて!」
返事の代わりに帰ってきたのはマイコさんの叫び声だった。私は咄嗟に扉を開けた。そのとき感じたものは甘く濃厚なイランイランの香りだった。くらくらする意識をなんとか抑えて中を見ると、そこにいたのは制服を脱がされて涙を流していた下着姿のマイコさんと先生だった。
「違う! 誤解だ!」
私は先生のことばを無視し、すぐさま助けを呼びに走った。
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