第9話


「ごちそうさまでした。」


ちょっとした小言を言った割に綺麗に完食された皿を見て、この子は素直じゃないだけで普通の女の子なんだなと思う。


「…お粗末さまでした」


俺の方を見ながらゆっくり頭を下げる。


「それは俺のセリフでしょ…。でも完食してくれてありがとう嬉しいよ。」


「ところで飛音ちゃん。もう夜だけどいつ帰るの?送って行くよ。」


今日初めて会った子だが夜道に一人で帰らせるのは気が引ける。

それにこの子よく見たら華奢で可愛らしい顔をしている。余計に心配になる。


「別に…送らなくていいよ。そんな遠くないし。それよりお兄さん。貴方はここで暮らすの?」


そう。このカフェは二階建てになっていて、二階がカフェ。そして一階が住み込みできるようの部屋がある。

実際に前の店長さん達が使っていたこともあり家具はほとんどないが必要最低限のものはある。


「うん。そのつもりだよ。一人で経営するから住み込みの方が時間も気にしないし…。って、俺の話はいいから飛音ちゃんはもう帰りな?夜遅いし…」


「…どうせ私の帰りを待つ人なんていないよ。」


「え?」


「私は空気みたいな人間なの。目に見えない。気にもされない。」


何の感情も表さないままそう吐き捨て、荷物を持ち店から出て行く。


「ちょ、ちょっと待って!」



彼女の言葉の意味はわからなかったが、一人で帰すのは危険だと思い慌てて追いかける。



これが僕と彼女の出会い。

僕と彼女の運命を変えるきっかけにすぎなかった。

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