第9話 魔王城のメイド前編

「おはようございます」


 聞き慣れぬ声で俺は目を覚ます。

 目線を声のした方に向けると、美しい黒髪を後ろで束ね、メイドの格好をした人が立っていた。


「えっと何方ですか......」


 見たこともない人がいきなり部屋にいて、困惑している俺に、彼女は顔色一つ変えずに答える。


「私はカース・ラナハと申します。この魔王城でメイドをしております」


「はぁ......」


「エリー様は魔王様の付き添いで起こしに来られないとのことでしたので、代わりに私が」


「あぁそういうことだったんですね。ありがとうございます」


 いつもならエリーさんが起こしにきてくれるのだが、そういうことだったのか。

 魔王......まだ捕まってるのか......


「朝食の準備が出来ておりますが、今お持ち致しましょうか?」


「はい。持ってきて頂けると」


「承知しました。しばらくお待ちください」


 そう言うと、彼女は一礼して部屋を出ていった。


「魔王城にメイドなんていたのか」


 今まで会ったことがなかったので知らなかった。


 魔王城を購入したと言っても、完全に俺の物になっているわけではなく、人間界で言うとマンションの一室を購入した感じで、エリーさんや魔王の他にも色々な魔族が魔王城に住んでいる。


 そのため、まだ会ったことのない魔族も少なからずいた。


「失礼します。お食事をお持ちしました」


 扉をノックしてから、メイドが朝食を持って入ってくる。


「ありがとう。そこの机の上に置いておいてください」


「わかりました。では私は仕事がありますので、失礼致します」


 メイドは先程同様一礼をし、部屋から出ていった。


「さて、冷めないうちに食べるか」


 椅子に座り、朝食を食べようとすると、いつもと違う違和感を感じる。


「あれ?いつもの朝食と違う?」


 いつも食べている朝食とは違い、朝食が輝いている。


「これは......美味そうだ」


 知らぬうちに口から唾液が零れ落ちていた。


「いただきます」


 朝食を一口食べる。

 そう。ただ一口食べただけだった。


 俺は意識を失い、その場に倒れた......



「はっ!」


 目が覚め、時計を見ると十時半を指している。


「俺二時間も寝ていたのか......というかこれ......」


 そう。朝食の見た目は輝くほど美しく、美味しそうだったのだが、食べてみるとマズイという次元を超えていた。


「これは食べ物なんかじゃない......一種の殺戮兵器だぞ......」


 一口食べただけで気絶するほどの不味さ。

 こんなもの誰が......

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