第2話 小さな秘書

 辺りを見渡し状況を確認する。


 部屋は大体体育館一つ分くらいの大きさで、部屋には俺の目の前にある玉座と思われる大きな椅子が一つあり、後ろにはこれまた大きな扉があった。


「ここは…玉座の間というやつなのかな?」


「てか本当に飛ばされたんだな……俺」


 色々と考えていると「ドン!」と大きな音がして、俺の背中に衝撃が走った。


「おいこのクソやろー!今までどこほっつき歩いてたんだよ‼︎」


「痛っ⁉︎」


 後ろを振り向くと俺の身長(175cm)の三分の二の背くらいしかない女の子があの大きな扉を開けて、いきなり俺の背中に飛び蹴りを食らわしてきていた。


 しかも見た所凄く怒っている……なんでこんなに怒ってるんだ?俺何かしたっけ?


「えっと……君は誰?」


「あれ?魔王じゃない……」


 俺も彼女も首を傾げる。


…………………………


 数分の沈黙の後に俺から話を振ることにした。


「えっと魔王からこの城を買って魔王代理をやってくれって頼まれたものなんだけど……」


「あぁそうなのね~……は?」


「ちょっ、ちょっとごめんもう一度言ってもらえる?」


 謎の少女は明らかに動揺しているようだ。


「だから魔王から城を買って魔王代理もすることになったものだけど」


「……あんのぉバカーーーーー!!!」


 あまりの声の大きさに俺は尻もちをついてしまう。


「あぁごめんごめん。まったく今度は大事な城まで売りやがったか…しかも知らない人間まで送ってきやがるとは…」


「んっ?今度はってことは前にも何か売ったんですか?」


「あぁ、あの馬鹿(魔王)はこの城以外のものをほとんど全て売りやがったよ」


「……えっ?」


 てことは俺にこの城を売ったらもう何もないんじゃないか?大丈夫なのか?


「あいつは重度のギャンブル好きでな、仕事もせずに人間界へ行って、競馬競輪パチンコ等をしてお金が無くなると自分の所有してるものを売り払うんだよ」


「へっへぇ……」


 魔王ダメ人間じゃねーか!

 あっ人間じゃないか……


「ちなみに説明し忘れていたが私は一応魔王の秘書のエリーだ、よろしくな」


「あっ貴女が秘書の方でしたか」


 しかし秘書というとメガネ系のキャラをイメージしていたが、こんなに小さい秘書だったとは。


「あの馬鹿が何もしないせいで全て私がやるはめになっているがな……」


「あぁ心中お察しします……」


「まあ君が来てくれたおかげで少しは私の仕事も楽になるけどな」


「えっ」


「んっ?魔王代理ってことは仕事をしてくれるんだろう?」


「まっまあそうなんですけど…」


 魔王の嘘つき!座ってるだけって言ったじゃないか‼︎


「えっと君の名前は…」


「一ノ瀬 洸真です」


「一ノ瀬君ね、これからよろしくな」


 彼女は満面の笑みで微笑んだ。


 俺はこれからどうなるのだろうか、ちょっと心配になってきた……


「えっとここにいてもなんだし、とりあえずこの魔王城内の紹介をするね」


「お願いします」


 こうして俺は彼女と共に魔王城内を回り歩いた。


 魔王城には最初に飛ばされた玉座の間の他にいくつも個室があり、一つ一つがきちんと清掃されていた。


 ちなみに魔王の情報通り風呂は広いし、先ほどの個室も結構な広さがある。


 しかし一つだけないものがあった。


「あのぉエリーさん」


「んっなんだ?」


「転移装置はどこにあるんですか?」


「あぁ……あれかぁ~ついてこい」


 連れてこられたのは魔王城の地下にある倉庫のような部屋だった。


「一応それだが……」


 彼女が指差した所にあったのはとても古びた機械だった。


「えっこれが転移装置ですか?」


「あぁ長年使ってなかったから多分もう使えないとは思うがな」


「えっそれは困りますよ!いつでも好きな所に行き来出来ないじゃないですか!俺はこれがあるって聞いて購入したんですよ⁉︎」


 まあこれ以外にもいい所はあったが、一番は転移装置があるってことだったし。


「まあまあ焦るなよ、見る所君は学生だな?通学なら私の転移魔法で送ってやるから心配するな、そんなたくさんは使えないが行きたい所に行くことは出来るぞ」


「なんだ良かった……」


 最後に魔王城の外見を見てみるといかにも魔王城!って感じだった。


「これで一通り見終えたが他に質問はあるか?」


「いえ特には……」


「ならもう一度、これからよろしくな」


「はい、こちらこそ」


 俺と彼女は熱い握手を交わした。

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