第13話明けて君と

「…夜明けですね、宮様みやさま

伽羅きゃらは空をふと見上げて呟く。

夜明けの光に照らされて伽羅の黒髪が美しく見える。

「早いなぁ」

春明はるあきらは伽羅の頬をそっと撫でて、少し残念そうに笑う。

「…まだ一緒にいたいな。…なんてお前を困らせてはいけないな」

「…私もまだもう少しだけいたいですよ」


…夜明けは八咫烏やたがらすの家路に帰る刻限ときだ。

まもなく帰って来てしまう。こんな所を見られる訳にはいかない。


「…さ、宮様、お行きませ。また、会えます。…近いうちに…」

「…そうだね、お前と誓ったのだから。本気の恋をすると」

「…夢こそ現なり。願えば我らその声にいらえん」

伽羅は春明の瞳をじっと見つめて言う。

「…願えば簡単に会えますよ」

春明は静かに立ち上がる。



御殿の扉の前に立つと伽羅を抱きしめる。

「…お前は、暖かいな」

「…宮様も暖かいです」

春明は伽羅の頬に手を添えると唇を重ねる。

「…ん、愛してる」

「…私も……」

春明は扉を開くと、霧を見やる。

「このまま、まっすぐ歩きください。…清涼殿せいりょうでんに戻れます」

「…ありがとう」

一歩踏み出した春明に伽羅は声をかける。


「…宮様っ、沙鳴さなです」

「…え?」

「…私のまことの名は沙鳴さなです」

春明は一瞬驚いた顔をしたがふわりと微笑んだ。

「…うん、沙鳴、愛してる」

そう言うと春明は振り返らずに霧に消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る