第10話今も昔の

「何故こちらに…?」

伽羅きゃらの目の前にいるのは紛れもなく春明はるあきらである。

「…君に会いたくて…」

春明はしっかり伽羅を見つめた。

「…私も会いたかった…」

伽羅はそっと微笑む。

春明は伽羅の隣に座った。

お互い何も話さずにいると、口を開いたのは伽羅の方だった。

「…宮様、どうやってここまで来たのですか?」

伽羅は不思議そうに首を傾げた。

「君の式神が教えてくれた」

「ふふ、千菊丸せんぎくまるですね」

伽羅は春明を見つめ返す。

「…姫は…変わらないな…俺のことをまっすぐ見つめてくれる」

「宮様こそ変わらないです」

春明の目にうつったのは伽羅の青みを帯びた瞳。

「…姫のことを忘れようと何度も思った。でも、無理みたいだ」

「宮様、私はただの姫ではないのですよ。私は八咫烏の巫女です」

きっぱりと伽羅は言う。

「知ってるよ…でもね、忘れることだって出来たはずだよね、伽羅だって」

伽羅は目をそらした。

「伽羅は俺のことを忘れなかった、ただの子供みたいな言い訳かもしれないけど……俺は、伽羅の気持ちをなかったことにしたくないんだ」

春明は伽羅の手をそっと握った。

「宮、様、本気でいらっしゃいますか?」

「本気だ。…君とこれからも一緒にいたい」

……本気なのだと伽羅は悟った。その目に偽りはなかった。

「……約束ですよ、私と恋をすること」

「…誓うよ」



幼い時、自分が嫌いだった。


いつも自分のまわりにいるのは、権力欲しさの大人だけ。


親王しんのうという地位につけこみたいだけ。


そんな時に声をかけてくれたのは君だった。


春明は伽羅の手を軽く自分の方へ引くと、その腕の中に閉じ込める。

伽羅はそっと春明の胸に顔を押しつけた。


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