第9話鳴神に舞わん

 こちらに向かってきた雷獣らいじゅうをかわした朱月あかつきは腰にいた太刀で斬りつける。

火焔消滅かえんしょうめつ

 朱月が呟くと同時に雷獣が炎で包まれる。

 だが、炎は雷獣の電撃で消え失せる。

「さすが…生半可な炎じゃ無傷ですか」

 雷獣はつづいて白狐びゃっこに飛びかかってくる。

「守護…!」

 白狐が結界で攻撃を防ぐと雷獣は、空へと舞い上がる。

「おい、逃げられるぞ!!」

「おやおや、それはいささかまずいですね」

 白狐はすかさず二人に命じる。

「逃がすな、追え!!!歯向かうなら容赦は無用!!!」

 朱月と龍王丸は呆れ顔で顔を見合わせる。

「やれやれ…」

 朱月は素早く印を結ぶ。

「我が名は八咫烏やたがらす。神聖にして穢れなき神の御使みつかい」

 朱月の背中には白い翼が生えていた。翼は光の当たり方によって金色にも見える。

 龍王丸も背中に翼が生えている。

 二人は飛び上がると雷獣を追いかけ回した。

 雷獣は負けじと辺りに放電していく。

「おい、白狐は!?」

「龍王丸、ここはおさに手柄を譲るのも一興でしょう」

 朱月と龍王丸は頷く。

「龍王丸、俺が雷獣の動きを止めている間に結界で閉じ込めてもらえますか?」

「了解」

 朱月は雷獣の鋭い鉤爪を太刀で受け止める。

 龍王丸は手に持っている扇を雷獣に向けた。

「…鳴神なるかみの…射干玉ぬばたま塗られた宵の果て…汝は我の檻の中」

 龍王丸は袖を勢いよく振り下ろした。

 結界が発動され、雷獣を取り囲んでいた。

 朱月はクスリと笑った。

 雷獣がその時感じたのは恐怖だった。

 目の前にいるのはなんだ。

 朱月の笑顔はどこか凍てついている。

「さて、準備は大丈夫ですか?長殿」


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