第8話御簾

 春明はるあきらは宮中を歩いていた。

 すると、曲がり角に現れた一人の少年。宮中で奉仕する殿上童かと思ったがその姿は人ではなかった。

 白銀の柔らかそうな髪。若葉色の瞳。首筋にあるのは三本足の烏の紋章。

「君は、八咫烏やたがらす?」

「の式神しきがみです。貴方は式部卿 しきぶきょうのみや春明親王様ですね」

 言い当てられ、春明は何も言えなくなる。

姫巫女ひめみこ様が、よく貴方のことをお話して 下さるので」

 少年は楽しそうに笑う。

「もし、よろしければ姫様の所へお連れしますが」

「でも…」

「ご心配なく。今宵は八咫烏たちもいません。夜明けまで帰ってきませんよ」

 少年はそっと春明の手をとり引いていく。



 どこをどうやってここまで来たのかよくわからない。宮中の奥の奥だ。目の前にあるのは重い扉。

「この中です。今から僕の言う通りの道順で進んでください」

 少年は細かく道順を説明していく。

 一通り説明すると一礼して行ってしまった。

 春明は扉を開く。その中にあったのは濃い霧に包まれた無数の橋だった。

『なるほど…どおりで説明が必要な訳だ』

 春明は少年に言われた通りに進んでいった。

 すると現れた大きな御殿に春明は息を飲む。

『これが烏殿からすでん…』

 耳に届いたのは琴の音だ。軽やかに紡がれるそれは懐かしい響きだった。

 春明は烏殿に入ると、琴の音のする方へ歩いていく。

 だいぶ歩いた所で琴を奏でている人物。

「…伽羅きゃら…」

 伽羅は琴を奏でる手を止めた。

「…どなたですか?」

 春明は物陰から姿を現した。

「宮、さま」



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