第6話言ノ葉の雷雨

「近頃の雨の被害、どうするつもりか」

 内裏。なかでもここは天皇の住まいでもある清涼殿せいりょうでん

 声の主は今上帝―貞宗さだむね―である。貞宗の視線は集められた殿上人でんじょうびとにあった。

 殿上人とは、六位以上の位にあり、清涼殿の昇殿を許された者達である。いわゆるエリートとも言える。

「雨の被害が尋常ではないぞ。民からも不

 安の声が出ているとか」

 清涼殿には巫女姫以外の八咫烏も集められていた。

 白狐びゃっこ龍王丸たつおうまるは真剣そうに聞いているが、朱月あかつきはどうでもよさそうにあくびをしている。

「白狐、どうみる」

「おそらく、なにかの妖では」

 白狐はおずおずと答えた。

「朱月は?」

「俺も白狐に同意ですねぇ」

 朱月の態度は変わらない。

 すると、殿上人の一人が朱月の態度に怒りの声をあげた。

「朱月!!貴様、さっきから見ておればその態度!帝の御前ぞ!!」

 他の殿上人からも不満の声が出た。

「そうだそうだ!!ただの術師の分際で何様か!! 」

「妖ふぜいが」

 朱月はニヤリと笑いながら言い放つ。

「じゃあ、あんたらが何とかしてくれるのか?」

「な、に」

 朱月は身に纏った狩衣から檜扇を出すと、殿上人にむかってつきだした。

「俺達にむかって文句を言うのは勝手だ。けど、あんたらが何とかするのか?違うだろ?結局、俺達が行かなくちゃならない」

 朱月の瞳はただただ冷たかった。

「大丈夫だよ、どうせもうすぐ白狐の言葉は現実に変わる。ねぇ、新月しんげつ

 朱月の視線の先には、一人の青年が立っている。

 紫をおびた黒髪に本性のわからない美麗な顔。名を賀茂新月かものしんげつ。宮中の陰陽師を束ねる陰陽頭おんみょうのかみである。歳は十九。史上最年少の陰陽頭と評されている。

 新月は書物を片手に貞宗の前まですたすたと歩み寄る。

 前代未聞の行動に殿上人達は絶句している。貞宗の表情は笑っていた。

「朱月、ご名答だよ」

 新月はよく通る声で報告を始めた。

「報告申し上げます。占いの結果、今回の雷雨の被害は妖の仕業と判明しました。妖の正体は雷獣らいじゅう

 貞宗は立ち上がった。

「上出来だ、新月」

 新月は跪き、一礼した。

「恐悦至極に存じます」

 貞宗は八咫烏を見やるとすぐに命令を下す。

「八咫烏に命ずる。雷獣を討て。…決して生かすな」

「「「はっ!!!」」」

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