第2話 烏は羽の手入れせず

「あーあ、眠い」

「俺ら、最近寝不足だもんな」

「どこぞの誰かのせいですかね」

「当の本人は何処どこにいっちまったのやら」

 ここは内裏の奥の奥。内裏は平安時代に平安京の北に位置した天皇の住まいであり、政治を行った場所である。

 その内裏で紙に筆をすべらせながら話す二人。

 一人は、朱色の髪を縛り、かんざしをさしている青年。色白の肌に金色の瞳をしていた。名を朱月あかつき

 もう一人は黒髪に青い瞳をした青年。頬には魚のうろこのような模様。名を龍王丸たつおうまる

「マジであいつどこ行ったの?」

「知りませんよ、まったく…この忙しい時に」

 二人は呆れ顔でつぶやく。




八咫烏やたがらす』。

 それは出自である。そして身分でもある。

 八咫烏は天皇の直轄で仕える者達である。通常、四人で構成され、古来より裏の天皇として君臨し、都の統制をつかさどってきた。主な役目は天皇を守護し、神々の言葉を人々に伝えること。

 御使みつかい。裏天皇うらてんのう。永きにわたり、様々な名前で呼ばれてきた。


「たっだいまー!」

 その八咫烏の住まい『烏澱からすでん』に明るい声が響く。

 入口にいる青年の白い髪は春風にふわりと揺れている。吸い込まれそうな瞳の色は紅色。名は白狐びゃっこ。八咫烏の長である。

手前テメェ、この仕事の山は誰が片付けたと思ってんだ?白狐」

 龍王丸がじろりと白狐を睨む。

「いや、それは…俺は八咫烏の中で一番偉い

 し」

 しどろもどろの白狐を朱月は面白そうに眺めている。


 今、八咫烏は長の白狐、朱月、龍王丸、そして巫女姫で成り立っている。


 これは、八咫烏を取り巻く物語である。


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