♯11 迷子探し



 乙女17花咲くいろは。

 迷い子探しを始めましょうか。


 目当ての子は17歳くらいの黒髪の美少女。

 抜けるような白い肌に、落ち着いた眼差しが魅力的な魔王様の腹心。私の世話係。

 太腿は張りがあって、柔っこくて気持ちいい。

 ついでにいい匂いもする。


 この魔王城のどこかにいるのは間違いない。

 城の出入りは厳しく管理しているので、そこを女の子1人とはいえ隠して通過するのは難しかろう。

 魔王城の中にいる。

 この、馬鹿みたいに広い城に。


 ……。


 ……。


 ……まぁ、物理的に探すのは無理だね。


 最初からそのつもりもないし。

 私のいる白の宮でさえ3日は隠れられる。


 あれこれと考えをまとめながら長い廊下を進み、通い慣れた修練場に降り立つ。


 城内に不慣れで自由に動きの取れない私。

 そもそもが自分の足で探し回るなんて無理な話。


 ならばどうするか。

 自分が出来ないなら出来る人を探せばいい。

 いるじゃないか。目の前に一杯。

 この城を知り尽くしてる方々が。


「おはようございます。今日もお疲れ様です」


 あくまで爽やか、にこやかに。

 こういう時には印象が大切なのだよふははは。


「おはようございます。レフィア様も今日もお元気そうでなによりですね」


「おはようございます。レフィア様」


「レフィア様はいつも明るくていらっしゃる」


 中々の好感触。良いではないか良いではないか。

 さすが、食べてないけど同じ釜の飯を食べた仲。

 素直な方々で私もとても嬉しいです。


 この近衛騎士さん達。本来のお仕事は魔王様の身辺警護なんだけど、勿論それだけじゃ終れない。

 人手不足な御時世やらねばならない事だらけ。

 むしろ最強の魔王様を守る必要があるのかと、そちらの人数は減らされているらしい。


 本末転倒な勤務形態には愚痴も零れる。

 今日は城内、明日は地下。

 城門の巡回警邏にまでも借り出されている。


「次は城内の巡回警邏でしたよね。訓練でお疲れでしょうに、本当にありがとうございます」


「あ、はい。お心遣い、ありがとうございます。……正直驚きました。軽い挨拶程度の会話でしたのに、覚えておられたのですね」


「近衛あっての魔王城ですから。当然ですよ」


 オホホホ成分5割増しでの微笑み返し。

 淑女。淑女。淑女。

 今の私は有閑淑女だ。自己暗示で突き進む。


「余程ヒマなのだな」


「うっさいハゲ。あら、失礼いたしました。つい本音が。おはようございます。アドルファスさん」


「……貴様というヤツは」


 うっかり地がでかかる。

 今はお前の相手をしているヒマなどないのだよ。

 人をヒマ人扱いしないでもらいたい。

 有閑淑女だけどさ。

 毎回毎回、律義に絡んで来るなよ。


「貴様は……。聖女なのか?」


 唐突にと呆けた顔してと呆けた事を言い出す。


 ……何言ってんだコイツ

 ハナクソほじり過ぎて貫通したか。

 誰が聖女だ誰が。

 恋人がいた事の無い私に対する皮肉か。


「我らに陛下がおられるように、人間の側にも聖女というのがいるのであろう」


「馬鹿にしてるんですか? そもそも、魔王様と対になるのは聖女様じゃなくて勇者様ですよね」


「初代の魔王様は初代聖女と相打たれたと聞いている。今から1200年程前の話だ。知らぬのか?」


 何それ、聖女様凄い。

 魔王様と相打つ聖女様。

 聖女様って武闘派だったのか。


「どうでしょう。聖都とかに行けばそういう事も分かるんでしょうけど、私は知りませんでした」


「今では勇者が聖女の役割を肩代わりしているようではあるな。人間の世界でも色々とあるのだろう」


「聖女様ならちゃんと聖女マリエル様がいます。私を見て聖女様のようだと思うのは仕方ないですし、それはどうしようも無いとは思いますけど。私は聖女様なんかじゃありませんよ」


「聖女マリエル……。今世の聖女か」


 後半部分がっつり無視しやがったな。

 脳天突き抜けてしまえ。


「はい。聖女マリエル様です。私のいた村も名前はマリエル村ですけどね。聖女マリエル様とは縁もゆかりも無く、全く関係ありませんから」


「そうか。つまらぬことを聞いた。そもそも貴様が聖女とかとち狂った話だったな。忘れろ」


 とち狂わんでくれ。

 改めて言われなくとも分かってるわい。

 渋い顔に皺を寄せて考えて込むアドルファス。


 何だか色々と悩みを抱えているらしい。

 妹さんの事と何か関係しているんだろうか。


 悩み過ぎて訳の分からん事を言い出す事って、確かにあるよね。うん。

 ……お大事に。


 アドルファスは兎も角、なるべく多くの騎士に話しかける。なるべく多くの情報を収集する為に。

 ほとんどが当たり障りのない世間話だったけど、中にはポロリと溢すヤツもいる。

 そういったポロリ達を丁寧に積み重ねていく。


 それを8時間交代の6組に対して繰り返すのだ。


 バタっ。


 頑張ったよ。私。

 宮の自室のベッドに泥のように倒れ込む。


 1日18時間も訓練に付き合って、必要な情報を集めるのに5日程かかった。

 手も足も鉛のように重い。だるい。痛い。


 馬鹿か私は、馬鹿だよ私は。

 何でわざわざこんな事をしてんだか。

 それでもそれだけの対価は得られた。


 中でも、彼女がすぐに殺される心配はないと分かっただけでも朗報だ。

 魔王様が旗揚げする前から彼女が側にいたのはかなり有名な話で、魔王様の腹心として広く周知されているらしい。


 そんな彼女を害すれば魔王様の逆鱗にも触れる事になる。現在魔王城にいるのは、私に対しては兎も角、魔王様には絶対の忠誠を誓う者達ばかり。

 まず、そんな事をする者はいないだろうと。


 仮に囚われの身であったとしても、そこまで酷い状況ではないだろうと分かって、少し安心した。


 逆に、別な疑問も出てくるけどね。


 手足を揉みほぐしながら考えをまとめる。

 実は、大体の目星はついている。

 あとはどういう順番で動くか、だね。


 相手の出方を待ってるだけじゃ駄目だ。

 私には小手調べ程度の事しか仕掛けてこない。

 本気じゃないのか、事を大きくしたくないのか。


「掻き回すか」


 ベッドに沈みながら、私は独り呟いた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る