♯9 1週間
1週間が過ぎた。
慣れれば慣れるもんだね何事も。
変態の館は今日も健在だ。
全裸のマッチョ像群はどかしちゃ駄目らしい。
魔王に似せて作られたからには、実際に似てようがいまいがエントランスホールから外すのは恐れ多いそうだ。
当然、壊すのも棄てるのも駄目。
裸に剥くのは恐れ多くないのかと聞いたら、より立派にしてあるから良いらしい。
何がだよ。馬鹿だろお前ら。
幸い、芸術的な汚物群はエントランスホールにしかなかったので、見ない振りをする事に決めた。
広々として解放的なエントランスホールだこと。
ホホホホホホホホ。
はぁ~あ。
この1週間を振り返る。
といってもやる事なんてほとんどありゃしない。
起きて着替えて食って寝る。以上。
さすがにそれだけだと駄目人間になる気がしたので、近衛騎士の訓練に参加させてもらっている。
アドルファスに直接お願いした時、すんなりと許可してくれたのは少し意外だった。
余所者の、しかも人間の女である私が参加する事になっても、近衛の騎士達は快く迎えてくれた。
団長はアレだけど、騎士達はとてもいい人達だ。
初日のアドルファスとの対面稽古を評価してくれてるらしく、何かと褒めてくれるのが普通に嬉しい。宮の白マッチョ群はともかく、ここの黒マッチョ達とは随分上手くやれてる気がする。
あの宮にあんまりいたくなくて、1日のほとんどを修練場で一緒に過ごしてるのもあるだろうけど。
魔王様とは初日以来会ってない。
向こうが来なきゃこっちから行く必要もないし。
求婚については、まだあんまり考えていない。
私の答えがまとまるまで待っててもらえるみたいなので、そこにはどっぷりと甘えてみる。
たかが村娘の1人くらい、強引に囲ってお仕舞いにしてもよさそうなものなのに、それをしない。
人間よりもよっぽど紳士的なんじゃなかろうか。
私は魔の国について知らなさすぎた。
食べてるものだってほとんど変わらない。
黒蜥蜴の丸焼きだの虫の目玉だのは出てこない。
城内も綺麗なモノで、髑髏が転がっていたり腐乱死体が徘徊してたりもしない。
たまに、角や尻尾の生えた人を見かけるが、大抵が人のそれと変わらない外見をしている。
魔物としての位が高い程そうなのだそうだ。
そして、魔王城に勤めている者達は余程の高位であるらしく、そういった者は見た目も悪くない。
魔王城に馴染みはじめている自分に気付く。
お父さんお母さんごめんなさい。
すごく居心地がよいです魔王城。
「レフィア様。一手御指南お願いします」
「あいさ。こちらこそ。お願いします」
体力作りと隊列の訓練を終えて対面稽古に移る。
それぞれに刃の引いた武器を使って打ち合う。
今日こそ目指せ!50人抜き!
魔王城に勤めているのは現在2000人程。それでも必要な数には足らず、急ピッチで人を集めて選抜しているそうだ。
城の出入りも相当厳しく取り締まっていて、簡単に出たり入ったりは出来ないと教えてくれた。
スンラとかいう先代の魔王のせいで、死んだ後も長い内乱が続きに続き、どこも深刻な人手不足らしい。
その国内の内乱を治めて、纏め上げた現在の魔王様の人望はとても高い。
リーンシェイドだけでなく、かなりの人達が熱を持って魔王様の事を語る様には、正直驚いた。
そんな魔王様だからか輿入れの話はやたら多い。
高位にある魔物達がこぞって縁談を持ち込むが、魔王様はそのどれにも首を縦に振らなかった。
周りからせっつかれて迫られて、ようやく選んだのがよりにもよって人間の娘。私らしい。
「許可はしたが、毎日来るもんか普通。陛下もこんな野猿のどこが良いのやら」
後半には同意だけど、お前に言われたくはない。
「ご質問ならば直接陛下へどうぞ。私だって好んでここにいる訳ではありませんので」
いつもの様にアドルファスが遅れてやってきた。
コヤツの言葉にはいつもどこか棘がある。
12人目の相手を打ち負かし、剣礼を掲げる。
そんな人気も人望も高い魔王様が何で面識も何も無い私を選んだのか。そんなの私だって知りたい。
適当に籤で選んだとか言われた方が納得できる。
魔王様の嫁に選ばれる心当たりなんて全くない。
この香り立つ淑女の魅力に絡め取られたとか。
無理があるか。知ってた。
アドルファスが剣を抜いたので、ささささっとその正面に立ってみる。
あからさまに嫌な顔をされて手で払われた。
何だろうね、この扱い。
「貴様とやると他の者との時間がなくなる。今日はあきらめろ」
えー。
「昨日もそう言ってたじゃないですか。サクっと勝ってサクっと終わらせるので大丈夫です!」
「寝言は寝ていえ。ほら、あっちに行ってろ」
リベンジならず。
コイツの私に対する扱いも相当雑になってるな。
最初からこんなもんだっけか。
いつもならここで、あに様がリーンシェイドに怒られるハズなんだけど、今はその美少女がいない。
彼女はたまに私の側からいなくなる。
この1週間。さすがに私でも気付く事がある。
私は命を狙われている。
それもリーンシェイドが側にいない時に限って。
心当たりは腐るほどある。
私自身に起因するものではなく、あちらさんの都合なんだろう所が癪ではあるけど、そりゃそうだ。
私という存在が邪魔で仕方ないのだろう。
気持ちは分からないでもないけど、はっきり言って迷惑極まりない。
落ちてくるナイフや飛んでくる毒針とか。
まだ可愛い嫌がらせで済んではいるものの、この先エスカレートしないとも限らない。
どうにかしたいけど、どうしようか。
それとなくセルアザムさんかリーンシェイドに相談してみてもいいかもしれない。
この状況を知らないとも思えないし。
この二人なら私は信用してもいいと思っている。
アドルファスは知らん。
けれど私は相談する事はできなかった。
それ以来、会えなくなってしまったからだ。
その日、リーンシェイドが消えた。
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