ノック


雨音、ひとつ


「ごめんください」


びしょぬれの傘の下

泥んこレインコートのお腹に

そうっと抱えたちいさな包み

だいじに

だいじに


雨音、ふたつ


「おとどけものです」


ドアの向こうからこもった声

不機嫌そうね

そりゃあわかるよ

君がどんな顔、してるかなんて


雨音、みっつ


「おとどけさきは、こちらです」


何度も何度も確かめた

だからここにいるんでしょう?

道に迷って、雨に降られて、

その上、転んだりなんかもして、

それで、

それで、

怖くなって


雨音、よっつ


「すてきなおくりものですよ」


さざんかの花

金色の蝶々

銀の指輪

白い羽

世界で一番大切な温もり

贈り主も、

注文者も、

君が一番よく知ってるでしょう?

…本当は、ずっと待ってたのも知ってるよ


雨音、いつつ


「うけとってくれるまで、かえりませんよ」


君が思い出すまで、

君が怖くなくなるまで、

君が顔をあげるまで、

君がしっかり立ち上がるまで、

君が


自分で、ドアを開けるまで。


雨音、やんだ


「やあ、きょうは、いいおてんきですね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る